海外の良い先行事例はどんどん採り入れるべき

武藤 データの活用という点で、「次世代医療基盤法」はどう関わってくると考えていらっしゃいますか。

黒田 次世代の医療の実現には強固な情報基盤が必要になってきます。データベースの維持もしないといけないですし、先ほど話したように患者に付加価値をつけてサービスを返そうと思ったら、親しみやすいアプリケーションなども構築していかなくてはなりません。これらすべてには少なくない費用がかかってきます。日本は医療システムが社会制度に組み込まれていますから、本来は税金で賄うべきでしょうが、そんな余裕はないのが実情です。

 そこで次世代医療基盤法では、企業などの利用者がデータの利用料を支払うことを想定しているようです。企業は潤沢なデータを活用して社会的価値を生み出すことだけに注力できます。極端な話、企業の研究者は自分が10年かけて行っていたデータ収集を数日間でできるようになる可能性も出てくるわけですから、プラットフォーム運用にかかる費用を分担してもらえばいい。皆が少しずつお金を出し合えば、大きな仕組みができるというスキームです(関連記事)

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武藤 ビッグデータにはノイズやエラーの問題もつきまといます。規模が大きければ大きいほどその割合は増える。これはどう考えていくべきでしょうか。

黒田 難しい話ですね。今は、正しいデータの採取方法を議論せずに集めてしまっていますので、ご指摘の問題は内包しています。でも、利用してもらっている内に、段階を踏んでデータの質が上がってくるのではないかと考えています。

 だからと言ってプラットフォームを作るのをやめてはいけません。他の国の例を見ていると、歩きながら考えてきたところも多い。国によってはデータを検査する会社を作って、その会社の標準検体でエバリュエーション(評価)されたデータしか受け入れないケースもあります。日本は大きいので舵取りが難しい面がありますが、そうした良い先行事例はどんどん採り入れていくべきだと思います。

武藤 我々が手掛けているオンライン診療でも、アプリでバイタルや生活情報を取得することができる機能があります。データは取得して終わりではなく、さらにデータの質を高めていく仕組みが必要だと感じています。それが可能になったときに、初めてデータプラットフォームがより機能すると感じています。

黒田 最初はプラットフォームに集まったデータの2次利用はかなり難しいだろうという気はしていて、1次利用、1.5次利用が中心のサービスになるでしょう。一方で民間でも独自にデータを収集しているわけで、コスト比較をした場合に必ずデータの質が問われるはずです。いずれにしろ、質を上げる議論は継続的に重ねていかなくてはならないでしょうね。