厚生労働省が2017年7月に新設した事務次官級のポストである医務技監。診療報酬改定からAI(人工知能)導入後の医師の在り方まで、幅広い話題について初代・医務技監を務める鈴木康裕氏と対談した。(編集部)

武藤 2018年度診療報酬・介護報酬改定が終わりました。鈴木技監は、これまでもさまざまな立場で報酬改定にかかわってきたかと思いますが、今回の改定で注目すべきポイントはどこだとお考えですか。

鈴木 ポイントは3つあります。第1は、急性期などの「入院医療」です。これまでの制度では入院患者7人を看護師1人が看る、いわゆる7対1がベースでした。しかし、このやり方では看護師の配置に応じて診療報酬が支払われるため、入院患者の重症度などが評価されておらず「本当に適切か」という議論がありました。

右が厚生労働省 医務技監の鈴木康裕氏(写真:栗原克己、以下同)
右が厚生労働省 医務技監の鈴木康裕氏(写真:栗原克己、以下同)
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 ドナベディアンが提唱した医療の質評価の枠組みである「構造(ストラクチャー)」「過程(プロセス)」「結果(アウトカム)」に置き換えるならば、ストラクチャーのみが重視されていたといえるでしょう。そこで今回はプロセスやアウトカムも重視すべきと考え、新たに「10対1」をベースにしつつ、重症度や医療・介護必要度も評価するような仕組みを取り入れたのです。

 第2は、あまり着目されていませんが「医療機器」に関連する部分です。重粒子線がん治療や陽子線治療、手術支援ロボット「da Vinci(ダビンチ)」など、近年は最新の医療機器を利用した治療方法がいくつも登場しています。しかし、これまでは機器の購入費などを含むコストに応じて診療報酬が決められていたため、治療費が高額になる傾向にありました。

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 その点を踏まえ、今回からはコストではなく患者が得られる価値に基づいて評価するように改定しました。これはあくまでイメージですが、例えばダビンチの価値が腹腔鏡手術よりも優れていれば高い評価になり、変わらなければ同じ点数にはなるという考え方です。方向性としては、費用対効果を基準にしたやり方だと考えています。

 第3は、医療機関の「経営における視点」です。我々はこれまで、医療機関の経営を考えるとき「増収」を主眼に置いて診療報酬を設定してきました。ただ、その結果生じたのは、収入とともに人件費なども増えて利幅が減る「増収減益」でした。そこで今回は増収にこだわらず、極力コストを削減して利幅を増やす「増益」を主眼としました。これら3つのパラダイムシフトが、今回の改定を契機に今後ますます拡大していくと思っています。

武藤 この3つの中で、実現に最も苦労したのはどれだったのでしょうか。

鈴木 やはり、第1の点でしょうか。特に、看護師の配置ではなく重症度で評価するという点で、不安になった人もいたようです。例えば、重症度は病院でも常に一定ではないため、「収入が変動してしまうのか」といった声はありました。もちろん、今後もさまざまな試行錯誤が必要だと考えています。