トラックの自動運転走行の実証実験や新興トラックベンダーの自動運転車の開発が内外で進んでいる。ヤマト運輸とディー・エヌ・エー(DeNA)は、2017年に宅配便の配達に自動運転技術を活用する実験を始める。ドライバーシートに人影のない“無人トラック”の走行映像も珍しくなくなった。もし、無人トラックが走り回るようになれば、トラックの稼働率が上がり、適正速度の巡航走行などの効果で燃費が改善されるという予測もある。

 その一方で、トラックドライバーという職業が不要になってしまうという懸念の声があるのも事実だ。トラック運送業の現場を知る全日本トラック協会の永嶋功常務理事に、自動運転が作るトラック運送業の未来を聞いた。
(聞き手:日経BPクリーンテック研究所 林 哲史)

――ドライバーの高齢化など、トラック運送業が抱える事業上の課題が自動運転で解決できるのではという期待の声が上がっている。トラック運送業界は自動運転を歓迎しているのか。

写真●全日本トラック協会の永嶋功常務理事
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写真●全日本トラック協会の永嶋功常務理事

永嶋 ドライバーの負荷軽減につながる自動運転は大いに歓迎したい。大歓迎だ。ドライバーの負荷を軽減する仕組みはどんどん取り入れていきたい。ドライバーの高齢化や労働力不足が深刻化するなかで、もっと早く進めてくれという声さえ上がっている。負荷軽減の観点だけでなく、ドライバーの安全を守るという観点からも、今後の技術進展に大きな期待をかけている。

――無人トラックが走り回るようになれば、ドライバーの労務費を削減できるほか、輸送頻度を高めて事業効率を上げられる可能性がある。ただ、そうなると、ドライバーから職業を奪うことになるのではないかという指摘もある。

永嶋 仮に自動運転が可能になっても、今のわが国の状況では、直ちに「無人トラック」が公道を走るということまでは考えにくい。それに、そもそも「ドライバーが職を追われることになるから、自動運転は問題だ」といった発想はない。今のトラック運送業界では、ドライバーの高齢化が進み、一方で少子化や労働環境などの影響もあり、若いドライバーのなり手がどんどん減っている。トラック運送業界の労働力不足は将来に渡って続くものと考えており、むしろ無人トラックへの期待は大きいといえる。

 特に経営者サイドでは、無人トラックが実用化され、人手不足や労働コストの上昇といった経営課題が改善されるのではないか、という願望を持つ人が多い。

――運転のアシストだけでなく、ドライバーの役割も果たしてくれることを期待する声があるということか。

永嶋 そうだ。自動運転に関する報道が広まっていることもあって、トラックの世界にも自動運転がすぐにやってくるのではないかという期待が高い。運転が楽になったり、人間より機械が運転する方が安全ということも考えられる。

 実際のところ、乗用車は人(ドライバー)が移動するためのツールとして、常に人が乗車していることが前提となる。だから、乗用車の自動運転は、ドライバーをどれだけアシストできるかを議論することから始まってきた。これに対してトラックの自動運転はすぐに“無人トラック”が連想される。トラックはものを運ぶためのツールだから、無人でもよいのではないかということになるのだろう。言い換えれば、それだけトラックの自動運転に求められる期待度が高いともいえる。

 一方で、無人トラックの実現には、解決しなければならない問題や課題が山積みしていることも指摘しておかねばならない。