体と同様に心の健康状態も継続管理すべきでは

――体の健康状態は、不調を感じた時だけではなく、定期検診などで継続的に把握できます。心の健康状態については、定期検診はおろか、不調を感じても検査できない、改めて考えれば怖い状態だったわけですね。

川人氏 倫理的な問題も生じる可能性があるため慎重に考える必要があるのですが、うつ病、自閉症、統合失調症、双極性障害という4つの疾患に関して、脳内の回路から易罹病性(特定の疾患への掛かり易さ)を調べることができます。原理的には、入社試験や昇任試験、職種の適性判断などに利用することもできます。自信を失っている、悩みを抱えているといった心の健康状態を検査することにも利用可能ですから、定期検診への応用には意味があると思います。私は、これから10年くらいの間には、民間で、こうした心の検診ビジネスが始まるのではと考えています。

――これまでブラックボックスだった脳の活動が、あからさまに分かるようになると、抵抗感を感じる人も多いかもしれません。

川人氏 かつて、会話や読み書き、計算などに関わる「作業記憶」に対応する脳内の回路を見ることができるという内容の論文を書いて、報道発表したことがあります。取材に来た受験生の子どもを持つ記者が、「こんな夢も希望もない話はない。人の記憶が機械で分かり、それが一生変わらないとすれば救いがないではないか」と言われました。でも、これは誤解です。学習で鍛えたその瞬間の脳内回路が分かるのであって、さらに学習すればその回路は当然変わります。検査結果で受験の合否を決めるのはどうかと思いますが、学習の達成度は分かります。