濱口 ただ、実際には、プロセスというものは存在していないんです。プロセスは、「最初にこれをやって、次にこれをやって、最後にこれやるとイノベーションが起きる」というレシピを意味します。そんなものがあったら、誰でもできるということになりますよね。

 僕が普段、口を酸っぱくして言っているのは、プロセスではなくて「プロトコル(Protocol)」です。プロトコルは作法というか、ちょっとしたルールのことです。「Aをやって、Bをやって、Cをやると、Dが手に入ります」ということではなくて、「AとBとCを組み合わせると、Dを得られる確率が上がります」というルールといったら分かりやすいでしょうか。

 例えば、イノベーションを具現化するには「バイアス(先入観)を崩す」ということが絶対に必要です。次に必要なのは、「アイデアという抽象概念は、組み合わせることで必ず構造化できる」という考え方です。こうしたことをキッチリとやると、イノベーティブな発想に至る確率がぐっと上がります。

 でも、このプロトコルを知らずに、だまされている人が少なくありません。ワークショップで「プロトタイプを作ったらいい」「みんなでスキャッティングしたらいい」「付箋紙を使いまくったらいい」というような方法論だけが先走りする状況は直さなきゃいけない。

え? 今までの話って……

前野 なるほど、「Purpose」「Potential」「Passion」「Protocol」の四つの「P」が必要なのですね。

濱口 ここまでで「4P」ですから、もう一つ「P」を付け加えて「5P」にしますか。「3P」や「4P」は、マーケティングの用語としてよくあるけど、「5P」はないでしょ。ちゃんとロジックを組むと絶対に第5の「P」が現れます。

前野 え? 今までの話って、即興で考えているんですか?

濱口 はい。あ、思い付きました。五つ目の「P」は、新しいものを生み出す確率、つまり「Possibility」です。プロトコルで確率を高めるんですが、はっきりいってこれはラッキーもあります。人生は、長くても100年程度しかない。もし、2万年生きられたら、誰でも新しいものを生み出すチャンスがありますけどね。

 プロトコルがラッキーを上げる側に働いているので、もしかするとパッションもラッキーを上げる形になっているかもしれないし、パーパスはパッションを生み出しているかもしれない。パッションによって能力が上がるかもしれない。こういうふうに連結しているんです。

 つまり、必要なものは「目的:パーパス」、次に「情熱:パッション」、そして「自分の能力:ポテンシャル」で、プロセスは存在しないですから諦めてもらって、「プロトコル」がある。そして「ポシビリティ」があればイノベーションは起こせますし、この「5P」のどれかが欠損していてもうまくいかない。複雑に絡み合っているのが人間やから…ということで「5P」になりました。

 今日の対談では、「イノベーションの5P」が生まれましたね!

前野 あのー…。もう一度聞きますけど、今の「5P」の話は、ここでしゃべりながら考えたんですか?

濱口 そうです。申し訳ないですが、今日は前準備を全くしてきませんでしたから。新しい「前野×濱口対談 イノベーションの5P」ということで(笑)。

前野 これも「トークの中で絶対に五つのPが出る」と信じた結果ですよね。

濱口 そうですよ。だってさっき言ったでしょう。「絶対に5Pにしてやる」って(笑)。

前野 天才だ…。

(次回に続く)