井上 すごいのは川島先生です。僕らが良かったのは、“てらい”がないことだと思います。川島先生のアドバイスを素直に聞き、「この人が言うならそうなんだろう」と突っ走れる、そんな向こう見ずなところが強みだろうなと。
野々上 とはいえ、そこから井上さんが発展させて、集中力を計測するというコンセプトにつなげたところもすごいと思います。今も、世間で「働き方改革」がフォーカスされる中、そのために必要なデータをどう集めるかという取り組みを進めていますね。
――普通の機器メーカーだと、眼鏡型ウエアラブルデバイスで同じような発想に至ったとしても、「センサー入れました」「いろんなデータが取れます」「何でもできます」となってしまうような気がします。「集中度」という確固たる軸を持つJINS MEMEは、そのあたりがちょっと違うのかなと思いました*。
井上 「何でもできそうだね」と言われるものが、結局は手持ち無沙汰になって消えていくのを見てきたので、JINS MEMEでは「これができます」という明確なニーズをずっと探していました。最初から汎用的なプラットフォームとして展開するのではなく、まずはどんな分野でもいいので一点突破することが重要だと思ったのです。
JINS MEMEの発売は2015年11月ですが、実はその1年半前にメディア向けの発表会を開催しています。「こんな商品を作ります」というコンセプトを世間に発信するためです。メーカーにとって大事なコンセプトを1年半前に出すのは、それなりに覚悟がいりました。それでも発表に踏み切ったのは、僕らだけではハードウエアからサービスまでを一貫して作れないからです。他社と組み、垂直統合で一点突破するための柱を作らないといけません。発表会でも、「自社だけではできないので」とはっきり言いました。そこらへんが変わっているというか、いまどきというか(笑)。
野々上 でも、そうすることで他の会社や研究機関との連携につながったわけですね。
理解しやすい形で結果を示す
井上 集中度のデータを計測できたとしても、それだけでは何も分からないんです。集中度のデータを生かすには、コンテクストを把握する手掛かりが欠かせません。例えば、HR(Human Resource)の分野では「ピープルアナリティクス」と呼ばれていますが、どんな作業をしている時に集中していたとか、どんな介入があると集中度が変化したとか、周囲の状況とひも付けて分析する必要があります。そのために、人材系のコンサルティング会社やシステムインテグレーターなどと連携してデータのやり取りをしています。
そのとき気を付けているのは、ユーザーにとって理解しやすい形で結果を示すことです。離職率や残業代といったなじみのある指標と結び付けるとか、既存のレガシーシステムと連携できるようにするとか、そういったフォローをしています。新しすぎるサービスというのは、得てして普及しませんから。
野々上 確かに、従来の指標が新しい切り口で解明されていくところに面白さがありますね。