スマートウオッチ(コネクテッドウオッチ)とその関連サービスを生み出した実績を持つ野々上 仁氏(ヴェルト 代表取締役 CEO)と、“研究開発型町工場”としてITを活用したものづくりの進化に挑む由紀精密の大坪正人氏(同社代表取締役社長)による対談の第3回。前回は、次世代を担う若者にいかにものづくりの魅力を伝えるかという話題で盛り上がった。
今回のテーマは、AIやブロックチェーンなど最先端のITがものづくりに及ぼす影響である。機械設計が専門の大坪氏だが、自分の専門領域にとらわれることなく、好奇心のままに新しいことに手を出すことが大切だと語る。(進行・構成は高野 敦)
大坪 由紀精密は部品加工の会社で、私自身は機械設計が専門ですが、最近は興味深い革新だらけで毎日楽しくて仕方ないんです。
野々上 それは幸せなことですね。
大坪 例えば、AR(Augmented Reality)なんて使い道がたくさんありますから。
野々上 組み合わせがいくらでもあるでしょうね。
大坪 この前も、あるデジタルものづくり系のイベントでAR分野の方と知り合いまして、スマートフォンのカメラで見ているものを3次元化する技術というのがあるらしいんです。そういうソフトウエアの技術が発展すると、1周回って、再びハードウエアの価値が出てきたといいますか、ハードを知っていると先行できるなという感じです。
やっぱり、そういう新しい技術を使いこなしてものづくりをしている人と、そうじゃない人との間には、すごい格差が生まれてくると思います。ものづくりも、どんどんスパイラルアップしていかないといけないです。昔の職人は手作業で磨いて精度を出していましたが、今の機械は手作業ではできない領域まで磨けるし、計測できます。そうなると、その機械を使ってさらに良くしてための人の知恵が出てくるし、今度はその知恵をカバーする機械が出てくる。人も機械もどんどん良くなるから、両方を知っていないと、上がっていけない。どっちかにこだわっていると成長が止まってしまいます。
野々上 そういう意味でも、物を作るためのIoTが大事ですね。
大坪 AIなんかも絶対に入ってきます。AIは注目されすぎていて、ちょっと変なことになってきていますが…。最近も、「現場にAIを入れることになったけど、どんなデータを取ったらいいか」という相談があって。
野々上 目的と手段が(笑)。
大坪 完全に逆転しているけど、そうはいってもAIで何ができるのかということをよく知っておくことで、ものづくりの問題点とか可能性も見えてくるので、やっぱり両方とも知っていることが大事です。
友人の経営する旋盤加工メーカーで、若手とベテランがそれぞれ加工条件をセンシングしたら、実際にはダメだと思っていた若手による加工の方が良いことが分かり、ベテランがショックを受けたという話を聞きました。