スマートウオッチ(コネクテッドウオッチ)とその関連サービスを生み出した実績を持つ野々上 仁氏(ヴェルト 代表取締役 CEO)と、“研究開発型町工場”としてITを活用したものづくりの進化に挑む由紀精密の大坪正人氏(同社代表取締役社長)による対談の第2回。前回は、IoTによるソフトの進化がハードの進化を促しているという話題で盛り上がった。
今回のテーマは、次世代を担う若者にいかにものづくりの魅力を伝えるかということだ。音楽レーベルの立ち上げや小学生向けコマ作りイベントなど、一見奇抜なようでいて、実は確かな技術の裏付けに基づいた由紀精密の取り組みに迫った。(進行・構成は高野 敦)
野々上 由紀精密は、本業の部品加工だけにとどまらず、いろいろなことにチャレンジしていますよね。少し前に、カンヌでしたっけ。
大坪 「カンヌライオンズ」*のデザイン部門でブロンズ賞を取りました。先日は「ADC賞」でもグランプリをいただきまして。
野々上 本当ですか。すごいですね。
大坪 広告の世界で日本一になってしまったという。
――工場の音や映像を使ってアーティストが作品を発表する「INDUSTRIAL JP」ですね。
野々上 どういう狙いがあるのですか。
大坪 そもそもの発端は、私が機械科の同級生と新橋で飲んでいたときですが、その相手というのが大手の広告代理店に勤めていまして、ちょっと異端児的な人なんです。「広告業界は大手企業がクライアントで、テレビ中心でいいのか。これからは個人でも配信できるインターネットに主役が移ってしまう」といったような問題意識を持っていまして。一方で、私の方は中小企業になかなか若い人材が集まらないという悩みを抱えていました。メディアの人からすると、中小企業の工場、「作業着のおじさんが薄暗い工場でぼそぼそとしゃべっている」みたいなイメージなんですね。
野々上 ステレオタイプ的な。
大坪 みんなそう思っているわけです。例えば「下町ロケット」もストーリーは素晴らしいけど、構図としては大手企業にやられている中小企業が反骨精神で巻き返すということで、そういう意味ではステレオタイプを脱し切れていません。どうしても町工場という時点で同情の対象になっているんです。
私はそうではないところからスタートしたくて、中小企業をどうプロモートできるのか彼といろいろ話をしたんです。メディアとしても、新しい広告のスタイルを確立できるかもしれないということで、それで行き着いたのがINDUSTRIAL JPでした。結局、言葉だけでどれだけかっこいいでしょうと言っても、なかなかそう思ってもらえません。だったら、見た瞬間にかっこいいねと思ってもらえるコンテンツを作ろうというわけです。
最終的に音楽レーベルを立ち上げようということで、6曲ほど作って、音楽配信もしました。工場のセレクションは私の方でもアドバイスしましたが、とにかく純粋に工場の音や映像を使って、かっこいいものを作ってもらったということですね。