日本でもだいぶ転職する人が増えているようにも聞きますが、まだまだ終身雇用の文化がアチコチに根強く残っていることも否定できないと思います。これには、労働に関する法律などの法制面と、人々の考え方や習慣などという面と、それぞれ分けて見るべきでしょう。

流動性を高める“持ち運べる退職金”

 国際的に見ると、法制面では大まかに言って先進国ほど企業側に有利で、後進国になるほど労働者保護の色合いが濃くなるというのが筆者のイメージです。別の言い方をすれば、極端な労働者保護というのは、国民の大半が貧困に苦しんでいて、労働者の酷使を防ぐことが国家レベルで重要な課題であるような場合に取るべき方針でしょう。その後、経済発展が進むにつれて労働者保護という色彩が薄くなっていき、相対的に企業側の採用や解雇に関する自由度が高まり、結果的に労働力の流動性が高まっていくという筋道ではないかと思います。

 日本では、かなり前から派遣社員に関する問題がいろいろと取り沙汰されているようですが、そもそも、労働力の流動性が全体としてもっと高まれば、企業側も派遣社員などのような「抜け道」を持ち出す必要もなくなるのではないでしょうか? それと、米国の401kのように、“持ち運べる”退職金の存在も重要でしょう。筆者の知る2002年以前の日本では、勤続年数とともに退職金の額がどんどん上がっていき、例えば勤続5年と30年の2人を比較すると、勤続年数は6倍でも退職金の額は20倍近くの差がついたと記憶しています。

 退職金が上がっていくこと自体は決して悪くはないと思いますが、問題はこれを転職の際に持って行けないことです。つまり、転職すればするほど、生涯の間に受け取る退職金の合計がすごい勢いで減っていくわけです。もちろん、退職金制度は会社によってマチマチですから日本で働く全ての人に当てはまるわけではないでしょうが、多かれ少なかれこの傾向にあるでしょうし、これが労働者側にとって転職を控える動機付けとなる事は言うまでもありません。