限られた労力でIoT化を進めるコツ

 とはいえ、実際に中小企業がIoT化を進める場合、全ての領域を対象にすると労働力が足りません。目の前の仕事をこなしながら、IoT化を進めなければならないのです。従って、IoT化に全労力を割くことができないというのが現実です。

 それでも、限られた労力でIoT化を進めるコツがあります。それは、自分たちの得意な領域に絞ってIoT化を進め、実証実験を行なうことです。その他の部分については専門の会社に依頼したり、外部の企業と共同開発したりするのです。

 特に勧めたいのが、中小のベンチャー企業との連携です。ベンチャー企業の多くは自社の製品やサービスの開発を目指しつつも、日々の生活費を稼ぐ必要に迫られています。そのため、例えばプログラミングやハードウエアの試作品を依頼したときに、それほど大きな金額ではなくても快く引き受けてくれるベンチャー企業があるはずです。ここで、ベンチャー企業に対して彼らの製品開発に活用することを認めれば、喜んで引き受けてくれるケースが多いと思います。これに加えて、大学や研究機関の専門家からも、必要に応じてアドバイスをもらうとよいでしょう。

 このように、自分たちでIoT化を進めるには、外部と連携するためのコミュニケーションを普段から図っておくことが大切です。なお、地方にも「ものづくり」に興味を持つ技術者が集まるコミュニティーが必ずあります。そこに集う技術者たちと交流することも非常に大切であることを付け加えておきます。こうしたコミュニティーを形成することは、IoTの導入を目指す自治体にとっても有効です。

身の丈IoTの効能

 身の丈IoTは、決して雲の上の遠い話ではなく、そこにある現実です。例えば、きゅうりの仕分けを自動化した農家など、既にいくつかの事例が出てきています(関連記事)。

 身の丈IoTを実施すると、コストを削減できるだけではなく、成果を他人任せにするというリスクを回避することもできます。加えて、自社の社員教育につながり、重要なノウハウが自分たちに残るという利点もあります。実は、こうした観点から、資金力に余裕のある大企業でも身の丈IoTを実施する企業がたくさんあります。

 「IoTについて、いくら悩んでもイメージできなかったのに、専門家への相談や研修への参加といった一歩を踏み出したことで、はっきりとイメージできるようになってきた」。最近、こうした声もよく耳にします。声の主は、私にアドバイスを求めてきた人たちです。彼らはそれまでIoTとは無縁でした。

 身の丈IoTで最も大切なことは、早く最初の一歩を踏み出すこと──。この事実に一刻も早く気が付いて欲しいと私は思っています。