精密計測/校正:世界トップレベルの技術を活用、企業のセンサー開発を支援

 産総研は独自開発するセンサー技術の用途展開を模索するだけでなく、企業などと協力して新たなセンサーの開発も積極的に進めていきたい考えだ。それが、振動・衝撃といった加速度について世界トップレベルの精密計測技術と校正技術を活用し、信頼性を高めたセンサーやこれまで市場になかったような新たなセンサーなどの開発を支援する取り組みだ。

 産総研の工学計測標準研究部門 強度振動標準研究グループでは、振動や衝撃といった加速度を計測するセンサーに対して、正しく計測できているかどうかの“物差し”の役割を果たす「振動・衝撃加速度の国家計量標準」の研究開発を担っている。この研究開発を進めると共に、ここで培った精密計測技術や校正技術を活用して企業などから委託研究を請け負ってきた。2016年度は11件の委託研究を受託してきたが、その中心は加速度センサーの性能評価、例えば長周期振動を計測する加速度センサーや自動車に搭載し衝撃を検知するセンサーが正確に計測できているかを実証するといった内容がほとんどだった。今後は、こうした性能評価に加え、加速度センサーの企画や開発初期の段階から企業などと連携していきたいとする(産総研の相談窓口へのリンクはこちら)。

産業技術総合研究所 計量標準総合センター 工学計測標準研究部門 総括研究主幹の大田明博氏(左)、工学計測標準研究部門 強度振動標準研究グループ 主任研究員の野里英明氏(右)
産業技術総合研究所 計量標準総合センター 工学計測標準研究部門 総括研究主幹の大田明博氏(左)、工学計測標準研究部門 強度振動標準研究グループ 主任研究員の野里英明氏(右)

高精度の計測・校正技術が加速度センサーの高付加価値化につながる

 企業側にとって、加速度センサーの企画や開発初期の段階から産総研と連携する利点は大きい。計測精度の高く、性能面で競争力の高い製品の開発につながるからだ。

 産総研は、振動を計測する加速度センサーに対しては、周波数領域0.1~10kHzで加速度振幅0.03~200m/s2の範囲で計測・校正する技術を保有する。特に地震に起因するような長周期振動の計測、さらにはビルや橋梁、タービンといったインフラ診断に使われる10Hz以下の低い周波数領域では世界最高水準の振動加速度校正装置を整備しており、こうした用途での加速度センサーの開発に利用することが可能だ。

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 なお、加速度の国家計量標準に関わる世界各国の技能について、2016年12月に公表された超低周波振動(0.1~40Hz)の国際比較を見ると、日本は加速度計測技術で世界トップだった。0.1Hzの振動評価では、安定した正弦波振動を発生したり、計測することができないために、技能の評価を棄権する国も複数あったという。

 産総研では、さらに範囲拡張を進めており、同部署で開発された二重光路ホモダイン型レーザー干渉計やヘテロダイン型レーザー干渉計などを用いたナノレベルからサブメートルレベルの振動計測技術や高度な信号処理技術により、0.1Hz以下あるいは10kHz以上の周波領域においても加速度センサーの評価は十分に対応可能という。

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 さらに産総研は、衝突時に物体に生じる衝撃を計測する加速度センサーおよびその信号変換器に向けても、計測・校正する技術も保有する。ピーク加速度50~1万m/s2の衝撃で加速度センサーを校正する装置(衝撃加速度校正装置)を備え、さらに100万m/s2もの大きなピーク加速度に対応する三軸加速度センサーの評価装置も開発中である。また、ダイナミックレンジが大きく、かつ様々な周波数成分を含む衝撃加速度信号を増幅・変換処理する信号変換器の特性は計測結果に大きな影響を与えることから、産総研ではデジタルフィルタを用いた信号変換器の校正・評価技術の開発にも取り組んでいる。衝撃の計測は、自動車や鉄道、航空宇宙など大きな衝撃が生じる分野で用いる加速度センサーの開発に活用できる。

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感度だけでなく位相も高精度で評価、レーザー干渉計で実現

 産総研は、振動加速度校正装置や衝撃加速度校正装置にレーザー干渉計(レーザー光の中心波長は632.8nm)と精度管理された信頼性の高い計測機器、高度な信号処理技術を用いることで高い計測精度を実現している。利点は大きく2つ。1つは感度の精度である。レーザー干渉計の光源はとても安定な波長を持っており、信頼性の高い計測機器と高度な信号処理技術を組み合わせることにより、加速度センサーで振動や衝撃を検知する部分の変位量を高精度で計測できる。つまり感度の良しあしを判断する能力が高い。

 もう1つは位相を評価できることである。計測中は加速度センサーからの出力(電気信号)も同時に計測しているので、振動や衝撃が加速度センサーに加わってから電気信号が出力されるまでの時間差や、振動や衝撃の時間変動に対する加速度センサーの出力信号の応答性から、加速度センサーの位相特性が分かる。

 産総研によれば、今後は加速度センサーの感度に加え、位相の重要性が高まっていくという。インフラ診断の場合、ビルや橋梁などでは複数個所に加速度センサーが取り付けられることになり、その個数は今後増加していくだろう。タービンの不具合を診断する場合にも、複数個所に加速度センサーを取り付けて、詳細に診断したいという要求は強まるとみられる。各箇所の加速度センサーが出力する信号波形の位相を比較すると、診断対象がどのような振動状態にあるかといったモード評価が可能になる。モード評価には、位相特性に優れる加速度センサーが必要だ。このようなセンサー開発には高精度で位相を計測できる装置が不可欠であり、産総研は保有する装置や計測技術を十分に生かせるとみる。

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