産総研の地質図で未来のリスクを予測、地質の成り立ちを知ることで可能

――地質図を読み解くと、例えば何か災害につながる痕跡も見えるということですね。

斎藤氏 そういうことです。産業面で地質図の活用を考えてみると、例えば工場の設置場所を考えたとき、複数の候補地があったとします。その時に地質図は、「どこが最も地質災害のリスクが高いのか」ということが分かるので、一つの判断基準になります。地質図Naviではシームレス地質図上に活断層の位置をオーバーレイ表示させることができ、活断層がどこにあるか、そして活断層によって過去に地質にどのような影響があったのかが見えてきます。

――このような地質図は現在、どれくらい利用されていますか。

斎藤氏 地質図Naviのベースマップである20万分の1日本シームレス地質図では、3000万ヒット/月のアクセスがあります。これは地質図Naviだけでなく、地質図を見せるために特化した20万分の1日本シームレス地質図のサイトでの利用や、タイル画像の配信を使うスマートフォンアプリなどがあるためです。ホビーとして地質図Naviを楽しむ一般利用者もかなり多いですが、業務での利用者としては地質関連の業界、特にゼネコンから仕事を請け負う地質コンサルタントの活用が多いという認識です。地質コンサルタントは地質情報を基に、その土地がどのように形成され、どのようなリスクが考えられるのかを分析します。

――BCPを考えると、地質コンサルタントやゼネコンだけでなく、もっと広く地質図Naviを活用されてもよいのではないでしょうか。例えば、製造業では工場新設の立地を検討したり、顧客企業などの立地を確認して強固なサプライチェーンの確立を考えたり、ICTベンダーであればデータセンターの立地を考えたりなど。

斎藤氏 まさにその通りです。過去に災害がひどかった箇所と地質図の区分が合致するところはかなりあります。関東地方を例に取ると、東日本大震災で液状化現象に見舞われた箇所がありましたよね。比較的新しい埋め立て地だけでなく、内陸部でも液状化現象が生じた箇所がありました。こうした箇所は、大きな川の流域にあり、近年になって土がたまったところだったりします。人間の目では同じような場所に見えても、地質は違います。この違いを、地質図Naviのシームレス地質図で確認することは可能です。

上図は東京都心部の20万分の1日本シームレス地質図、下図はこの地質図に明治期の低湿地データ(国土地理院)をオーバーレイ表示させたもの。上下を比較した際に下図で色が変化した箇所が明治期以降埋め立てたり、低湿地を陸地として活用し始めた地域(下図右側および右下側)であり、軟弱な地質とみられる。
上図は東京都心部の20万分の1日本シームレス地質図、下図はこの地質図に明治期の低湿地データ(国土地理院)をオーバーレイ表示させたもの。上下を比較した際に下図で色が変化した箇所が明治期以降埋め立てたり、低湿地を陸地として活用し始めた地域(下図右側および右下側)であり、軟弱な地質とみられる。
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 例えば、河川の流域に形成された平地の場合、約1万8000年前~現在までに形成された地層であっても、そこが河川の周囲の自然堤防で砂などの粗い物がたまった場所か、泥などの細かい物たまった場所であるかで地盤が違います。後者の方が地盤が軟らかく、地震の際に揺れが大きく出やすいといえます。