有料会員の獲得策

 そうしたことを踏まえた上でのアマゾン社との契約である。まず目につくのは、契約が今回も1年限定である点だ。これはネット企業のサービス品質や効果、契約形態などを試行錯誤している面もあるだろう。

 しかしそれ以上に大きいと思われるのが、やはりテレビ局との契約であろう。現在NFLはTNFを除くテレビ中継を4つのテレビ局と2021年まで結んでいる。その契約更新を巡る交渉ではデジタル配信権が重要な項目となるのは明白だ。そのため、契約更新時期をまたぐようなストリーミング独自の長期契約を結ぶことは考えにくいのである。

 その一方で、今回の契約料は契約内容が昨年のツイッター社と同じでありながら5倍になった。さらに英ガーディアン紙は、アマゾンが3000万ドル相当のNFLをPRするプロモーションを行う項目が契約に含まれていると報じている。

 独占配信でもないのにこれだけ急騰したのは、ネット側の権利獲得競争が厳しくなっていることがうかがえるのだ。実際今回の契約交渉にはツイッター社や米フェイスブック社、米アルファベット傘下のYouTubeが参加していたと言われている。

 では、それほど多額の資金をつぎ込むアマゾンにとって、今回の契約にはどのような意味があるのか。まず注目すべきなのは、今回のストリーミングは有料サービス「アマゾン・プライム」の会員向けという点だ。アマゾン・プライムは日本でも行われている会員制サービスであり、日本では年3900円、米国では99ドルの年会費を支払うと、2日間や当日の配送を受けられたり、音楽配信サービスを利用できたりする。

 その中でも近年力を入れているのが動画配信の「プライム・ビデオ」なのだ。ドラマの制作などオリジナル・コンテンツの充実が積極的に図られ、この分野では米ネットフリックス社などと激しい競争を繰り広げている。

 アマゾンはNFLチームの1シーズンを追ったドキュメンタリーシリーズ「オール・オア・ナッシング」を独占配信していたこともあり、今回、人気の高いNFLのゲーム中継配信権を得たことで、さらなる契約者獲得を狙っているのだろう。

NFLの試合の模様2(写真:NFL)
NFLの試合の模様2(写真:NFL)
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リーチ数や広告獲得に課題?

 ただ、NFLによるこれまで2年間のストリーミングサービスは、誰もが無料で視聴できていたのが、有料会員のみとなることへの懸念も生じている。米国内でのプライム会員数は6300万人程度と推定されているが、視聴者数はその範囲内に留まることになる。

 これに対し、NFLのメディア部門とビジネス部門の責任者であるブライアン・ロラップ氏は「世界には数千万人のアマゾン・プライム会員が存在する。リーチが限定されているわけではなく、アマゾン社は巨大なスケールでサービスを提供できる。むしろ、リーチ数を拡大できると考えている」とコメントしている。

 一方、中継に挿入されるCMに対する懸念もある。テレビ中継においてCMは貴重な収益源だが、昨年のツイッター社の場合は1ゲームあたり10から15のCM枠しか割り当てられず、その販売に苦しんだと言われている。この割り当て数は今回も変わらない模様だ。

 さらに、プライム・ビデオの通常コンテンツでは、途中で広告が挿入されない。そもそもプライム会員がCMが流れることに抵抗感を示すのではいう意見もある。アマゾン社はこうしたことも踏まえ、一般のCMではなく自社オリジナル・ドラマのCMを流すのでは、との臆測もある。