加工技術を知らない大手企業という現実

 前回まで「製造の7分類」に基づいて、各分野における微細加工の実際の事例をご紹介してきました。そして、これら最先端の事例はいずれも従業員でいえば100人クラス以下の、中小企業によるものばかりです。

 筆者は中小製造業の経営コンサルタントとして、ほぼ毎日全国の顧問先を回っています。その中で良く聞くのが、
 「仕事を出す側の大手企業が、加工のことを知らなくなった」
 「以前と比べると技術レベルが、ずいぶん低くなった」
ということです。現実に、大手企業の設計者が描く図面が、とても実際に加工できるようなものになっておらず、加工可能にした図面を下請け企業が逆提案することもしばしば現場では見られる光景です。

 また、かつては「日本でもトップクラスの加工技術を持つ」といわれていた数々の大手企業が、現在では精度を要求される難しい加工になると社内でこなすことができずに社外の外注に出す、といったことも現場では多々みられるようになりました。

 ではなぜ、大手企業から加工技術が失われてしまったのでしょうか? 最初の大きなきっかけは1985年のプラザ合意です。この時までの為替レートは1米ドル200円台でしたが、一気に1米ドル100円台という円高誘導がなされました。これを引き金に、ソニーやパナソニック、当時の三洋電機など大手電機メーカーがこぞって海外へ進出していきました。

 例えば当時の三洋電機は、ビデオデッキの精密部品などを国内で加工していました。ところがプラザ合意を機に、こうした加工量産工場を東南アジアに移転していきました。いわば“第1次海外進出ブーム”です。