前回でも述べた通り、いかに超大手企業といえども自社商品の部品加工は社内で手掛けるでしょうが、社内設備の部品加工の仕事となると外注に出さざるを得ません。

 そもそも自社で開発した社内設備こそがその会社の競争力の源泉であり、従ってその社内設備の設計は機密中の機密です。その仕事を依頼する小規模・中小受託加工業に対しても、当然のことながらNDA(機密保持契約)の締結を求めるなど、機密保持に対して細心の注意を払います。ですからこうした微細加工に関わる情報というのは、あまり表に出ないのです。

 また、微細加工技術に関わる情報が表に出にくい理由はもう一つあります。それは小規模企業、あるいは中小企業が多くを占める受託型加工業者の大半が、営業力、特にマーケティング力に乏しいからです。例えば、受託加工したワークを表に出すことは、機密保持上の制約があるため表に出すことはできないかもしれません。しかし、他にも自社の技術を表現する方法はたくさんあるはずです。

 埼玉県入間市に、入曽精密という部品加工業があります。従業員14名ながら、トヨタ自動車やキヤノン、日産自動車、TDKと並んで「日経ものづくり大賞」を受賞した、高い技術を持つマシニングセンター専門の加工業です。同社は、自社の微細加工技術を最も効果的に表現するため、世界最小の「100μm角のサイコロ」を金属で削り出し、自社のWebサイトに掲載し、技術力の高さを訴求しています(図1)。世界最小であることからギネスブックにも掲載されていますし、完全に重心が取れているため高等学校の物理の教科書にも取り上げられています。

図1 世界最小のサイコロ(入曽精密)
図1 世界最小のサイコロ(入曽精密)
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 ところが、同社のように明確に自社の強みが“見える化”され、それが効果的に打ち出されているケースは極めて稀です。むしろ世の中の高い技術力を持つ、小規模・中小企業の受託型加工業の大半が営業はもちろんのこと、マーケティングはさらに苦手です。この点は、今後ぜひ取り組んでいくべき、大きな課題だと私は感じています。