きちんとしたルールづくりを

 これらの問題を解決する方法論の目玉となるのが、ADによる部活動の徹底管理になります。部活動の会計をAD、すなわち大学の簿内に取り込み、透明性を高めます。そして部活動を大学の正規のプログラム、つまり正課活動とし、選手、スタッフに関わらずチームの活動に携わることが単位取得につながることもあります。学生はADにおけるインターンの経験をもとに将来プロスポーツチームのマネジメントに関わったり、スポーツアドミニストレーターとして活躍できます。米国ではADのトップにインターン経験者が就任することもあります。つまり、学生の職業選択、就職活動に有利に働くわけです。

 ADに所属する部活動は大学の正規の教育となり、指導者の人事権はADが掌握します。俗人的で不透明なコーチ人事がまかり通ることを防ぎ、教育者としてふさわしくない人材を排除することが可能になります。安全管理については大学が全面的に責任を負うことになり、選手はもちろんのこと、指導者もAD監修の下、のびのびと活動できるようになることでしょう。考えてもみてください。部活動のコーチはそのスポーツの指導については一流かもしれませんが、同時に医療や栄養、会計や法務の専門家かと言えばそんなことは決してありません。大学が抱えるファシリティー、そして人材といったすべてのリソースをアクティベートし、ベストインクラスで改革を進めるべきです。

三沢 英生(みさわ・ひでお)
三沢 英生(みさわ・ひでお)
ドーム 取締役。1973年神奈川県相模原市生まれ。東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修了後、ゴールドマン・サックス証券、モルガン・スタンレー証券、メリルリンチ日本証券を経て、2013年、スポーツ産業に圧倒的なポテンシャルを感じ、株式会社ドームに参画。今年東京大学アメリカンフットボール部の監督に就任し、チームはもとより、大学の改革にも尽力している。(写真:ドーム)

 大切なのは、まずきちんとルールをつくること。米国で大学スポーツを統括するNCAAは、多種多様な局面のルールを取りまとめています。そもそも100年以上前にNCAAが創設されたのは、大学スポーツの安全対策に端を発します。

 東大フットボールでもNCAAを参考にして、部員に「死亡するリスクがある」「罪を犯した場合は全て自己責任」といった内容を記載した同意書へのサインを求めました。書面をきちんと作り、それに納得することができない学生は残念ですが部員としての活動を認めることはできません。死にたくないからと辞める学生もいるかもしれませんが、リスクを含めて全てを理解してもらった上で入部してもらいます。

 これは、私をはじめとする監督やコーチ側が責任逃れをしたいがための措置ではありません。死亡リスクや罪を犯した時のリスクを学生たちに周知し、リスクを理解した上で「やるか、やらないか」を判断してもらう。きちんとした説明で意識を高めることが、選手自身の安全確保やチームのリスクマネジメントでとても大切なのです。米国では当然の取り組みであり、だからこそリスクを理解した上でこれ以上ない最上級の安全対策を講じるのです。リスクを見て見ぬふりするのではなく、正面から向き合い、最善を尽くすべきなのです。

 練習や試合といったプレー面で選手の安全を確保することは言うまでもありません。アメフトの頭部外傷や頸部外傷を予防するため、例えば、タックルやブロックをする際に頭部を上げた状態(ヘッズアップ)で、かつ頭ではなく肩でぶつかるように大きく変わっています。米国のアメフトのアマチュア統括団体USA Footballでは、「Heads Up Football」という安全性向上のための指導ガイドラインを出しています。

 こうした安全なスポーツのための対策やルールづくりを1から10まできっちりと全てやる。それが米国のNCAAや、各大学でスポーツを統括するADの大きな役割の1つなのです。ただ、日本にはNCAAもADもありません。だから、まずはトップダウン、ボトムアップの両面から大学スポーツの改革を進めていこうと考えています。

 米国でも、それぞれの大学がADを作り、その規模や、改革する意思が同じ大学の集まりがカンファレンスとなっています。NCAAはカンファレンスや、各大学の意志の取りまとめを行っているにすぎません。だから各大学が自ら改革の意思を持つことが大学改革の一丁目一番地であり、本丸になります。