競争が生まれることで産業は強く大きくなる

 政府が目指す「スポーツ15兆円産業化」を揶揄するようなことを前述しましたが、別の角度で見れば、こうした国を挙げた掛け声が出てくること自体が以前とは相当に変化しているわけです。

 政府は、2016年に打ち出した「日本再興戦略2016」で名目GDP(国内総生産)600兆円に向けた成長戦略の中核となる10分野として「600兆円に向けた官民戦略プロジェクト 10」を掲げました。この中の主軸、野球で言えばクリーンナップとして「スポーツの成長産業化」という項目が入っています。コストセンターだったスタジアムやアリーナをプロフィットセンターに転換する、スポーツコンテンツを持つ団体や企業の経営力強化、スポーツとIT・健康・観光・ファッションの融合などに取り組むことで、スポーツを基幹産業にすることを目指しています。

 ただ、スポーツに限らず多くの産業にいえることですが、日本の場合はスピード感に課題があります。経営にスピード感がない。ここがボトルネックです。

 先ほどドームが責任とミッションを明確にしてスポーツ産業化にまい進しているという話をしましたが、目指しているのはスポーツを通じて社会を豊かにすることにあります。そのためには同業他社と切磋琢磨し、市場規模を拡大し、ともに日本のスポーツ界の発展に寄与したいと考えています。

 例えば、米国。スポーツでも学業でも優秀な成績を上げているミシガン大学はナイキ社と、ノートルダム大学はアンダーアーマー社と契約しています。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)や同バークレー校(UCB)、イエール大学はアンダーアーマー社、ハーバード大学、スタンフォード大学やミネソタ大学はナイキ社…。

 何が言いたいかといえば、名門大学同士もスポーツや学業でしのぎを削っていますが、そこと契約するスポーツ用品メーカー同士も激しく競合しているのです。「向こうはこんな提案をしやがったな。じゃあ、こっちはこうだ」と互いに切磋琢磨する関係が、そこにはある。こうやってスポーツがより魅力あふれる産業として成長していく。すごくいい関係があります。日本でも米国と同じように、大学同士、メーカー同士が切磋琢磨する状況を生み出したいと思います。それがスポーツ文化の醸成につながります。

 どんなビジネスでも、プレーヤーが互いにやり合うことによって、バチバチと対抗し合うことによって産業として大きくなり、成熟していきます。その競争の中で企業も組織も経営者も成長していくわけです。

 次回は大学スポーツ改革、つまり現在深い眠りについている日本の大学スポーツのアクティベーションについて話をします。今、一番ホットな話題で、ドームが最もパワーを注いでいる分野の1つです。

(談、構成は上野 直彦=スポーツジャーナリスト)

——次回に続く——