プロ野球の読売巨人軍(ジャイアンツ)や、プロバスケットボールの琉球ゴールデンキングスといったスポーツチームのユニホームで、また、街を歩けばカジュアルウエアで、“UA”つまり「アンダーアーマー」のロゴを見ない日はない。しかも年を追うごとにこの傾向は強まっている。日本でも急速にスポーツブランドとしてその認知度を高めてきた米アンダーアーマー社の日本総代理店を務める企業がドーム(東京・江東区)だ。

 本家のアンダーアーマー社の売上高は、2015年に前年比28.5%増の39億6331万米ドル(約4240億円、1米ドル=107円換算)。2011~2015年の5年間で売り上げは2.7倍に成長し、近い将来、ドイツのアディダス社や米ナイキ社に匹敵する企業規模のスポーツ用品メーカーになると分析するアナリストもいる。

 アンダーアーマー社の快進撃とともに成長を続けるドームを率いる経営トップが、同社の取締役会長兼代表取締役CEO(最高経営責任者)である安田秀一氏だ。かつてアメリカンフットボールの大学全日本代表チームでキャプテンを務めた安田氏はメディアに登場することこそ少ないが、歯に衣着せぬ熱い物言いや日本社会の変革に挑戦する姿勢をリスペクトする企業経営者やスポーツ関係者、アスリートは多い。

 経営者としてのビジョンとは、真のリーダーシップとは、東京オリンピック・パラリンピック(オリパラ)が開催される2020年以降の日本はどうあるべきか…。安田氏へのインタビューは予定時間を越え、熱く濃密なものとなった。(聞き手は、上野 直彦=スポーツライター)

ドーム 代表取締役 CEOの安田 秀一氏。(写真:加藤 康)
ドーム 代表取締役 CEOの安田 秀一氏。(写真:加藤 康)
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日本には「ベスト・イン・クラス」という発想がない

―― 日本のスポーツ界やスポーツ産業の価値を高めるに当たって、1番のポイントはどこにあると考えていますか。

安田 スケール感にもよるのですが、ひと言でいってしまえば旧態依然とした日本の制度との闘いだと思います。

―― 具体的には。

安田 日本のスポーツ界を見たとき、個々の小さな問題はたくさんあります。でも、それは真のリーダーシップ、つまり真のリーダーがいれば、どれもこれも解決する問題ばかりではないでしょうか。リーダーシップの不在こそが日本の1番の問題なんです。

 米国がスポーツをはじめとするさまざまな産業で、なぜ国際的に進んでいるか、なぜいつも新しいビジネスを生み出せるのか。その背景には「ベスト・イン・クラス(Best-in-class)」という考え方があります。日本語で言えば、適材適所、つまり「ベストな人をベストなポジションにつける」ということですね。ここからすべてが始まるのです。ベストな配置をする、ベストなフォーメーションをつくる。これを実行できることが、米国の強さの理由だと思います。

 4年後に日本がオリンピックという世界的なスポーツイベントを先進国としてやろうというのであれば、「ベスト・イン・クラス」は不可欠な要素です。