今回の対談相手は、失敗学でおなじみ、東京大学 工学系研究科 機械工学専攻 教授の中尾政之氏です。今回のインタビューで見えてきたのは、積み上げ型ではなく、課題発見型の人材を育成しなければならないという強烈な思いでした。(編集部)
(写真:栗原 克己)
(写真:栗原 克己)
中尾 政之氏
東京大学大学院 工学系研究科機械工学専攻 教授
1983年、東京大学大学院工学系研究科を修了。卒業後は日立金属株式会社に入社し、磁気ディスクの開発、磁気ヘッドの生産設備の設計などに従事。1992年に東京大学大学院 工学系研究科 産業機械工学専攻 助教授、ナノマイクロ加工などを研究し、2001年に教授、現在に至る。

編集部:はじめまして。我々の読者に向けての自己紹介も兼ねて先生の経歴を教えていただけますか。

中尾氏:僕は大学生のときに生産技術、機械設計をやっていました。修士を終了後、日立金属に入り、そこで磁気ディスク用の磁性膜成膜装置(スパッタリング装置)のエンジニアを9年間やりました。その後、東京大学に助教授として戻ってきた。

 大学に入った当初、1990年代は、コンピュータ用のHDDだとか、液晶ディスプレイやメインフレームコンピュータの実装の研究をしていたんです。これから、そうした軽薄短小のところが日本の一番強いビジネスになると思ってやっていたわけですが、あにはからんや、日本は全部負けちゃった。商売替えしなきゃならないっていうんで、その後、建設機械のコマツさんと共同研究を始めました。実は、最初は建設機械のような大雑把な力制御を馬鹿にしていたところがあるんです。ところが今や、すっかりそちらの方にどっぷりとつかっていて、今では三菱重工さんや、旭硝子さん、デンソーさん、UACJさんなどと研究しています。

編集部:大きい機械と、ミクロの機械と、研究として違うように見えますが。

中尾氏:実は同じです。大きい機械でも大きいところは、我々の先輩が解決してくれたから、残っているのは、これまで注目していなかった細かいミクロのところなんですね。顕微鏡で見なければわからない、センサーで測らなければわからない、X線で見なければわからない、そういったところです。たとえば、トヨタさんとの共同研究テーマでは、プリウスなんかで使っているレーザー溶接です。それ用のレーザー溶接機って、殺人兵器みたいなものすごいハイパワーのものなので、恐ろしくて溶接している前にはいけませんし、目では直接見られません。だから、どういう形になっているのかシミュレーションし、X線で測って、理論値と測定値が合っているのかを調べなければならない。

中央研究所が企業から消えた

編集部:それは、企業ではできないんですか?

中尾氏:できないわけではないけれど、企業は暇がない。必要がないともいえます。別に溶接して、くっつきゃ良い訳だから、どういうメカニズムで溶接されたかは博士号でも取ろうと思わない限り一生知る必要はない。だけど、エンジニアとしては悔しいですよね、なぜそうだったのかわからないのは。だから、そのメカニズムを共同研究で解明しませんかと持ちかけました。

 今、企業の中央研究所が縮小しちゃったんですね。コマツさんも研究本部ってなくなったんです。平塚にあった山の上に、大きな立派な中央研究所があって、200人くらいの研究員がいろいろな研究をしていたのです。でも、なかなか新商品が出ないんだから、それではと、ばらばらにして、開発主体の設計者にしちゃった。