自動運転やモビリティーサービスの普及に向けた前提条件として、本連載の第1回では、「交通システムで解決すべき社会課題・ニーズ」、第2回では「世界各国の都市構造」の2点について考察した。今回は、よりビジネス的な側面からの条件として、「各国において自動運転や新たなモビリティーサービスの普及をどの産業がけん引するのか」について考える。

世界各国の主要産業と自動車産業の位置付け

 自動運転やモビリティーサービスの普及に影響を与える産業を特定するには、まず各国の産業構造の違いを理解する必要がある。そこで、各国の主要産業を2015年度の利益額の大きさで順位付けしてみると、いくつかの興味深い点が見えてくる(図1)。

図1 各国の産業構造の中における各産業の位置付け
図1 各国の産業構造の中における各産業の位置付け
出所:SPEEDAをもとにADL推計 *各国の営業利益額上位100社を産業別に分類
[画像のクリックで拡大表示]

 一つめは、各国の自動車を中心とする輸送機械産業の位置付けである。日本の場合、輸送機械産業は金融産業に次ぐ利益創出産業になっている。しかも、金融産業は2016年度に日本銀行のマイナス金利政策により大きく収益性を落とすなど、政策に依存する要素が大きいため、実質的には輸送機械産業が最大の稼ぎ頭といってもよい状況である。

 一方、米国や中国では、輸送機械産業は利益額ランキングで他産業の後塵を拝する状況にある。日本と米国・中国の中間に位置するのが欧州である(欧州の中でもドイツは日本と同じように、自動車産業が主導する産業構造となる)。このため日本や欧州は、自動運転やモビリティーサービスの普及において、自動車メーカーの果たす役割が大きい、もしくは自動車メーカーの意向によってこれらの普及のスピードが変わり得る可能性が高い。

 それでは各国の産業構造の中で、自動車産業以外ではどの産業が自動運転やモビリティーサービスの普及をけん引し得るのか。ここで特に注目すべきなのは、「広告・情報通信サービス」産業の位置付けである。米国のGoogle社やAmazon社、Uber Technologies社などの情報通信技術をベースとした新興のサービス事業者が、自動運転やモビリティーサービス普及において大きな役割を果たすことが注目を集めている。実は、この産業の位置付けは、国によって大きく異なる。

 言うまでもなく、広告・情報通信サービス産業の存在感が最も大きいのは米国である。利益額ベースでいえば、米国では情報通信産業が自動車産業の10倍近い投資余力を持っている。実際に、米国において自動運転やモビリティーサービスの開発をけん引しているのは、情報通信サービス事業者である。米GM社や米Ford Motor社などの既存の自動車メーカーは、これらのサービス事業者に対する出資者や協業先としての位置づけで取り上げられることが多い。

 米国に次いで情報通信産業の存在感が大きいのは中国である。インフラ整備を進める建設・不動産産業に次ぐ利益を創出している。実際に、中国において自動運転開発を主導しているのはBaido社などの情報通信事業者であり、自動車メーカーにおける開発の主戦場は電動車開発であろう。一方、自動車産業が比較的投資余力を持っている日本や欧州でも、情報通信産業は一定以上の投資余力を持っているように見える。