一方で、内需主導での成長が実現できる国の一番分かりやすい要件は、人口規模そのものが大きいことがであるが、もう一つのより重要なポイントは15~64才までの労働人口が増えること、いわゆる“人口ボーナス”をいつまで享受できるか、ということである。
実際に、人口ボーナスと経済成長率には相関があることが知られている(オークンの法則)。これは、各国において失業率を増やさないために必要とされる経済成長率が「人口ボーナス(労働人口増加)期」と「人口オーナス(労働人口減少)期」と「総人口減少期」のそれぞれ異なるというもので、各国の経済政策上この成長率が一つの目安となっている。(実際に中国においてGDPの年率7%成長率が国是となってきたのも、これが根拠だと言われている)。
この観点から見ると、図3に示すように実は新興国といわれる国の中でも、特にアジアにおいて多くの国が人口ボーナス期の終焉を迎えつつある。典型例は中国であり、「新常体」なる表現で目標成長率を引き下げようとしているのには、それなりに根拠のある行動であるとも言えるし、この観点から見た場合に中長期的な成長が保障されていると言えるのが、インドとインドネシアであるというのもうなずける(インドネシアは短期的には資源価格下落の影響が大きく出てしまってはいるが)。
アジア各国の中期的な労働人口の動態を予測した結果(図4)を見ると、中期的にはアジア各国の労働人口の需給バランスは需要過多に陥り、各国が労働力確保のために移民政策を本格的に導入するといったことさえ十分に起こりえるだろう。
結果として、新興国の中で「中進国の罠(十分な経済発展が進まないうちに人口ボーナス期が終了し、経済停滞がもたらされること)」に陥る国と、遅々としながら中長期的な成長を実現する国とに二極化が進むとともに、先進国vs新興国という既存の経済的な序列の世界的な固定化が進む。マクロ経済的な観点から言えば、「フラット化する世界」の実現は、難しくなりつつあるのではないか。