このような政策面での後押しを受け、新規の電源調達が比較的困難な新電力にとって、「常時バックアップ」は貴重な電源調達手段として広く活用されるようになり、2012年1月時点では、電力小売事業を行っている新電力27社うち、約半数の14社が常時バックアップを利用し、その契約電力は約59万kWとなっている(ピーク時の2008年時点の契約電力は約100万kW超)。

 自ら保有する発電所の運転開始などにより、常時バックアップを取り止める新電力もいる一方で、新規参入したばかりの小規模な新電力や供給エリアの拡大を図る新電力にとっては不可欠なものとなっている。

 なお、「常時バックアップ」に関しては、現在、大きく分けて以下の二つの論点がある。

(1)卸電力取引所における取引への移行
(2)常時バックアップの「価格」および「量」の考え方の見直し

 1点目の「卸電力取引所における取引への移行」に関しては、日本卸電力取引所(JEPX)が2005年4月に開設されたことに伴い、議論が喚起された。総合資源エネルギー調査会電気事業分科会のもとに設置された制度改革評価小委員会の報告書(2006年5月)では、「新電力としては、一般電気事業者からの常時バックアップに、当面の間は、ある程度依存せざるを得ない状況」「常時バックアップは卸電力取引所における取引に移行すべき、との方向性については意見の一致が見られるが、その際は、卸電力取引所における取引が十分に厚みのあるものであること、市場支配力の行使の検証をはじめとして市場監視が十分になされることなどの条件が整うことが必要」と整理されている。

 エネルギー基本計画(2010年6月閣議決定)では、「当面の目標として、年間約30億kWh(2009年)に留まる取引実績を、常時バックアップからの移行も含め、3年以内に2倍程度に引き上げることとし、そのための具体策を検討する」と、卸電力取引市場の活性化策を示している。

 また、先に挙げた「適正な電力取引についての指針」においても、「新規参入者があまりに長期間にわたって常時バックアップに依存することは望ましくなく、卸電力取引所の創設に伴い、今後は取引所に移行していくことが期待される。ただし、そのためには卸電力取引所における取引が十分に厚みのあるものになり、市場監視が十分になされるなどの条件が整う必要がある」と整理している。

 2点目の「価格」および「量」の考え方の見直しに関しては、2012年7月に電力システム改革専門委員会が取りまとめた「電力システム改革の基本方針」において「常時バックアップの料金体系を、一般電気事業者のベース電源コストに基づいた価格設定に変更するよう一般電気事業者に求める」とした。ここでは、常時バックアップの料金の基本料を引き上げる一方で、従量料金を引き下げることを求めている。これにより、常時バックアップの利用率が高い新電力の負担が軽減されるため、新電力の新規参入およびシェア拡大を促す効果があると考えられている。

 また、常時バックアップの「量」の考え方に関しても、新電力が新たな顧客開拓をしやくする環境を実現するために、新電力の販売拡大量(新規に顧客と契約した電力量)に一定の割合(3割程度)を乗じたものを「常時バックアップ利用枠(kW)」として設定してはどうかとの議論が、電力システム改革専門委員会で進められている。

常時バックアップ料金体系の見直し方針
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