電力スポット市場とは、卸電力取引所が開催する最もポピュラーな電力取引市場の一つであり、翌日に発電または販売する電気を前日までに入札し、売買を成立(マッチング)させるものである。このため、1日前市場と呼ばれることもある。英語ではDay-ahead marketと表現される。日本では、日本卸電力取引所(JEPX)が電力スポット市場を開催している。以下は、日本卸電力取引所の電力スポット市場について解説する。

 電力スポット市場は、1コマ30分単位で取引され、1日当たり48コマの商品がある。最低取引単位は1コマ当たり500kWhである。売り手(発電会社や一般電気事業者など)と、買い手(新電力や一般電気事業者など)は、取引日(通常は受渡日の前日)までに売りたい量と価格、または買いたい量と価格の組合せをネット経由で札入れしておく。日本卸電力取引所が扱う市場は、原則として全国市場(沖縄は除く)であり、発電所や需要の場所はどこでも構わない。

※市場の開催は平日のみであるため、受渡日が日曜や月曜の場合は金曜にまとめて3日分の取引が行われる。

 取引日の午前中に卸電力取引所は48コマ全ての売り札と買い札を価格と量に応じて積み上げ、需要曲線と供給曲線が交わる均衡点をコンピュータが計算する。そして、1コマにつき1つの約定価格を決定する。すなわち、たとえ約定価格よりも安い売値を入れた売り手も、高い買値を入れた買い手も、全員がこの約定価格で取引をする。約定価格よりも高い売札や安い買札は取引不成立となる。このような価格決定方式を「シングル・プライス・オークション」と呼ぶ。取引手数料は、約定した量に対して、売り手と買い手それぞれ1kWh当たり0.03円である。

 入札は全て匿名であり、市場に参加する売り手も買い手も、取引の相手が誰かなのかは分からない。このため、電力スポット市場はそれ自体が巨大な仮想発電所であり、かつ仮想需要家であると捉えることもでき、これを「電力プール」と呼ぶことがある。

 電力スポット市場では、日々の電力需要と供給状況の変化により、時々刻々と市場価格が変動する。通常は、平日昼間の時間帯が最も高く、休日や夜間は安くなる。季節によっても価格は変わり、需要の大きな真夏や真冬は高くなる。文末に掲載したグラフは、最近1年間(2011年秋~2012年秋)の電力スポット市場価格と取引量の変化を表している。東日本大震災以降、原子力発電所の稼働停止による供給力不足から市場価格は高値で推移しており、残暑が厳しかった2012年9月には1kWh当たり40円以上の価格が付いた。

 経済産業省の電力システム改革専門委員会資料によると、2011年度の電力スポット市場取引量はわずか47.4億kWhであり、同年の総小売販売量の0.5%に過ぎない。このため、同委員会は電力スポット市場を含む卸電力取引の活性化が急務であるとして、一般電気事業者や卸電気事業者に対して、卸電力取引のさらなる活用を求めている。

最近1年間の電力スポット市場:取引量と価格
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