電気は、ブランドや品質で区別しにくく、一般に価格と量だけで市場取引できるコモディティである。この電気の卸売取引が行われる場が「卸電力取引所」である。日本では「日本卸電力取引所(英語名:Japan Electric Power Exchange:JEPX)」が唯一の取引所として営業している。

卸電力取引所
[画像のクリックで拡大表示]

 日本卸電力取引所は、2003年の電気事業制度改革の一環で、電力会社や新電力などが出資する私設の取引所として設立、2005年4月に取引が開始された。会員制であり、2012年10月現在の会員数は58社である。現物の電気のみを取り扱い、先物取引は行っていない。卸取引であり、現在のところ消費者や需要家が直接市場で電気を買うこともできない。

 これ以前は電気を手に入れるためには、(1)自前で発電所を建設する、(2)発電事業者などと相対の売買契約を結ぶ、(3)電力会社からのバックアップを受ける――以外の方法はなかった。卸電力取引所が加わったことで、電気の調達手段はより柔軟になったと言える。また、卸電力取引所の重要な機能の一つに市場価格の形成がある。十分な取引量がある取引所の価格は、例えば発電所などの投資判断に使う指標になり得ると期待されている。

 日本卸電力取引所が取り扱う主な市場は以下の通りである。

<スポット市場>
 翌日に受け渡す電気を30分単位(24時間を48コマに分割)に区切って取引する市場。参加者は、前日の朝までにコマごとの価格と量の組み合わせを入札する。価格と量は売り札(供給)と買い札(需要)の交点で決まる。最低取引単位は1000kWh。最も取引が活発なメインの市場である。

<先渡し市場>
 将来のある期間に受け渡す電気の取引を行う市場。月間の昼間型・24時間型、週間の昼間型・24時間型がある。入札は「ザラ場」方式であり、参加者はいつでも売り札、買い札を出すことができる。価格と量が折り合ったらその場で成約となる。

<時間前市場>
 当日受け渡す電気を、スポット市場同様に30分単位で取引する市場。電気の発電計画や需要計画は前日朝までに確定されるが、計画確定後に発電所トラブルや需要の急増などの不測の事態を想定し、2009年に開設された。ただし、市場は24時間常に開いているわけではなく、1日に3回の取引が行われている。

<分散型・グリーン売電市場>
 自家発電やコジェネなど、1000kWに満たない小さな発電設備からの余剰発電分を売ることができる市場として2012年に開設された。取引市場というよりも、売り手と買い手の相対契約を仲介するスタイルで、価格・量・期間などの条件は任意に設定できる。

 このほか、太陽光発電や風力発電などのグリーン電源からの発電も取引可能で、量の制約がなく、売り手は会員でなくとも良い(買い手は会員に限られている)ため、家庭の太陽光からの余剰電気も販売できる。