augmented reality:拡張現実感

 人間が実際に見たり,聞いたり,触ったりする情報に,コンピュータで加工処理した情報をリアルタイムに重ねて,人間の感覚を拡張または強化したり,作業を支援したりする技術。例えば,スマートフォンが内蔵するカメラが表示する映像に,リアルタイムで映像内のオブジェクトに関連する情報を重畳する。

 1990年代前半に生まれたもので,既に映画やテレビではよく使われている。例えば,スタジオにいる解説者が,あたかも大自然の中にいるかのように背景の映像を合成する。テレビ以外では,暗視スコープや戦闘機のパイロット向けの標的表示など軍事技術として発達し,医療分野でも2年ほど前に実用化されている。

 ARと,1990年前後に注目を集めた仮想現実感(VR:virtual reality)との基本的な違いは,現実の情報と仮想の情報の混合比率にある。VRが実際の情報,例えば視覚をすべてコンピュータ・グラフィクス(CG)など仮想情報で置き換えようとしているのに対し,ARは現実の情報を前提に,仮想情報を付加する。仮想情報の割合が小さいのである。

 ただし,この混合比率を少し変えた場合の技術の呼び方は,研究者や技術者によってまちまちだ。現実の情報と仮想情報が混ざっているものをすべてARと呼ぶ人もいれば,「複合現実感(MR:mixed reality)」と呼ぶ人もいる。仮想情報が主体で現実の情報が付加されている場合,それをMRと呼ぶ人も,「AV(augmented virtuality)」と呼ぶ人もいる。

 また,こうした混合比率の違いとは別のモノサシでARかどうかを区別している研究者もいる。仮想の情報をどのように重畳するかどうかよりも,具体的な人間の作業を支援するという効果に重点を置く立場だ。