video streaming

 リーマン・ショック以降,逆風が吹き荒れる米国の消費者市場で2008年,急成長を成し遂げた企業がある。宅配DVDレンタル事業大手の米 Netflix, Inc.である。2008年12月に終了した四半期実績で同社は,売上高の前年同期比が19%に達したと発表した。成長を牽引した主な要因の一つとして同社が挙げたのは,2007年1月に開始した動画ストリーミング・サービスの成功である。不況を追い風に,現在主流のケーブルや衛星テレビ・サービスに伍する勢いで伸びている。

 ストリーミングは,ネットワーク経由で配信されたデータを,受信しながら連続的に再生する手法である。受信側機器にすべてのデータをいったん蓄積してから再生する「ダウンロード」と対比的に使われる。ただし,ストリーミングでも再生品質を安定させるためなどに,データの一部を一時的に蓄積しながら再生するのが一般的だ。

 インターネットを使った動画ストリーミング・サービスは1990年代後半に始まった。米RealNetworks, Inc.が1997年にサービスを始めると,米Apple Inc.や米Microsoft Corp.といった大手も相次いで参入し,一時は大いに盛り上がった。だが,動画ストリーミングの本格的な普及は,2005年に入って米国家庭のインターネット接続のうち,ブロードバンドが占める割合が60%超えを果たす(米Nielsen/Net Ratings調べ)まで待たねばならなかった。米YouTube,Inc.のサービスが始まったのは,この時期である。

 動画ストリーミングはもともと,家電機器と相性が良いといわれていた。動画の再生がすぐ始まり,ユーザーの満足度が高いことや,受信側機器に大容量のストレージが不要でコストダウンに有利な点がその理由だ。だが,これまでは受信側機器としてパソコンを想定した動画ストリーミング・サービス以外に,目立った成功を収めたサービスはなかった。

テレビに接続してストリーミング動画を楽しめる,Roku社のSTB「Roku Digital Video Player」。価格は99.99米ドル
テレビに接続してストリーミング動画を楽しめる,Roku社のSTB「Roku Digital Video Player」。価格は99.99米ドル

 Netflix社のサービスはMicrosoft社の「Windows Media」を採用している。この結果,パソコンだけでなく,STBやゲーム機,対応テレビやBlu-ray Discプレーヤーといった家電機器を対象にできた。特に99.99米ドルという低価格で販売された米Roku,Inc.製のSTB「Roku Digital Video Player」は,大いに話題を集めた。

 このSTBは,各種の圧縮動画の再生機能やインタフェース回路などを持つオランダNXP b.v.製のSoC「PNX8935」に,256Mバイトの主記憶と,64Mバイトのフラッシュ・メモリを組み合わせている。7~8年前なら「高性能パソコン」と呼べるような性能を,100米ドル足らずの機器に組み込めるようにした半導体技術の進歩が,動画ストリーミングの成功を真に後押ししていると言えそうだ。