配線を形成していないSiウエハーの裏面から光を当てるCMOSセンサである(図)。CMOSセンサでは,Siウエハーにまず光電変換を担うフォトダイオードを形成し,次に配線を作り込む。これまでのCMOSセンサは,配線の上から光を当てて撮像する表面照射型である。裏面照射型は表面照射型に比べ,同じ光量でも明るい画像を出力できる。配線層がない裏側から光を当てることで,配線層による光損失を抑えられるからだ。

 表面照射型だと,電変換を担うフォトダイオードの周りを配線層が取り囲んでおり,光の利用効率を高めづらい。斜めに入射する光が配線で反射されてしまい,ほとんど光電変換できないためである。フォトダイオードに少しでも光を多く入射させるには,撮像素子に対して光を垂直に当てることが有効だが,そうするとカメラに装着するレンズ・ユニットが長くなってしまう。

 裏面照射型を作製する上での課題は,フォトダイオードまで光を通すためにSiウエハーの裏面を研磨して薄くすることである。この薄型化工程は,雑音や欠陥画素の原因である結晶欠陥を大量に発生させかねないからだ。加えて,裏面照射品では,混色(光学的クロストーク)も表面照射品以上に顕著になる。抑制には,隣の画素に光が飛び込むことを抑止する材料を探し,適切に配置する必要がある。

 こうした課題があるため,裏面照射技術を用いた撮像素子は学会などでこれまで提案されてきたが,量産に踏み切るメーカーはなかった。こうした状況は変わりつつある。2008年になって,米OmniVision Technologies Inc.やソニーが量産計画を打ち出した。裏面照射構造の採用は今後,CMOSセンサの感度向上における標準的な手法になる可能性が高い。


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図 表面照射型と裏面照射型の断面構造
裏から光を当てて光を無駄にしない裏面照射型CMOSセンサの断面構造を大まかに示した。これまでの表面照射品では,光電変換を担うフォトダイオードとカラー・フィルタの間に配線層が存在するため,光がフォトダイオードになかなか直接入射しない。これに対し裏面照射品は,カラー・フィルタのすぐ下にフォトダイオードを備えるので光の損失が少ない。(日経エレクトロニクス2008年6月30日号から