削られ続ける適用範囲,改正でネット利用に足かせ

 著作権法は著作物に対する著作者の権利を保護するための法律である。だが,著作権法の条文には著作者の権利の行使を,あらかじめ制限する例外規定がいくつかある。その一つ「私的使用のための複製(私的複製)」に関する規定を記しているのが,著作権法の第30条である。ユーザーが著作者の許諾を得なくても,個人で楽しむためにテレビの番組を録画したり,CDからお気に入りの曲を携帯型音楽プレーヤーにコピーしたりできるのは,この条文があるからだ。

 著作権法第30条は現行の著作権法が制定された1970年(昭和45年)に,すべての私的複製を「無許諾・無償」で許可する形で導入された。だがその後,主に著作者からの要求によって,適用範囲は徐々に削られてきた注1)。1992年の改正では,約15年の検討を経て「私的録音録画補償金制度」が導入され,録音・録画の私的複製は「無許諾・有償」になった。政令で指定するデジタル方式の録音・録画機器と媒体を販売する際にユーザーから「補償金」を徴収し,著作者に還元するこの制度は,私的複製で発生する著作者の経済的な不利益を根拠にしている。

注1)1992年の改正では音楽テープの高速ダビング装置を店頭に置いてユーザーに使わせる業者を排除するために公衆向けの「自動複製装置」による複製を適用範囲から外し,1999年の改正ではコピー制御技術(技術的保護手段)を回避する機器やソフトウエアを使った複製を除外した。


著作権法第30条「私的使用のための複製」の適用範囲の変遷「私的使用のための複製」という概念は現行の著作権法が制定された1970年(昭和45年)に導入された。著作権法の改正ごとに,主に録音録画に関して第30条の適用範囲が徐々に狭められている。図は文化庁の資料を基に本誌が作成。

 文部科学大臣の諮問機関である文化審議会傘下の私的録音録画小委員会は現在,第30条の改正を審議している。P2Pファイル交換ソフトウエアなどによる権利侵害を排除するために,違法な録音録画や違法サイトからの複製を対象から外すいわゆる「ダウンロード違法化」案に加え,契約による課金と補償金の二重取りを防ぐ目的で適法配信からの複製も第30条の対象から外す検討をしている。また,補償の必要性について改めて議論しているほか,対象機器の範囲をメモリやHDDを内蔵する携帯型音楽プレーヤーやパソコンなどまで拡張するために,対象機器の指定方式を簡素化する案なども議論の俎上にある。

 こうした改正には機器メーカーや消費者団体から強い反対がある。特にダウンロード違法化案は「インターネットの利用や新しいサービスの登場を阻害する」という批判もある。しかしながら現在までの小委員会の議論を見る限り,第30条の適用範囲を再び縮小する方向で結論が出る可能性が高い。

日経エレクトロニクス2008年1月14日号より