silicon on insulator

 絶縁体の上にSiを形成したウエーハ構造。通常のバルク・ウエーハは,全体がSiの結晶であるのに対し,SOIウエーハは活性層の直下が絶縁層になっているため,次のような特徴を持つ。まず通常のデバイスでは,寄生容量が減って動作速度の向上や低消費電力化,ソフト・エラー耐性の向上などが達成できる。高耐圧素子では,破壊電圧を向上できる。

 こうした特徴を備えるSOI基板の需要が急速に拡大している(図1)。面積ベースの市場の年平均成長率は,この3年間で40%に達している。これはSi基板の年間平均成長率である8%を大きく上回る。SOI基板メーカー最大手の仏Soitec社によると,金額ベースの市場規模は2010年までに10億米ドルを超える見込みである。その場合,LSI向け半導体基板の約10%をSOI基板が占めることになる。

最大手Soitecが240万枚/年で生産へ

 市場拡大の理由は,SOI基板を使う高速プロセサがパソコン(PC)やゲーム機に相次いで搭載されていることである。例えば2006年には,任天堂の「Wii」,ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の「プレイステーション3」,米Microsoft Corp.の「Xbox 360」のゲーム機3種に搭載された。さらに今後は,薄型テレビやデジタル・カメラ,自動車向けのプロセサやSoC(system on a chip)などへ採用が広がる見込みである。日本国内では,携帯機器向け低電力LSIにいち早く採用した沖電気工業のほか,東芝やルネサス テクノロジといった大手LSI各社が混載メモリーなどの開発を進めている。

 こうした状況を受けて,SOI基板で80%以上の市場シェアを占めるというSoitecは,SOI基板の生産能力拡大とLSI設計環境の拡充に乗り出した。同社はフランスに持つ二つの工場に加えて,シンガポールに300mmウエーハ対応の新工場を建設中である。これによって,2008~2009年の生産能力を240万枚/年(300mm換算)と現状のほぼ2倍に高める。さらに,2006年10月には英ARM Ltd.との協業を決めた。SOI基板を使うLSIの設計ライブラリを共同で開発し,基板ユーザーに提供する。ユーザーはSOI基板向けの設計環境を個別に構築する必要がなくなり,LSI開発コストを削減できる。こうした設計環境が整っていないことが,これまで「SOI基板の普及を妨げる最大の要因だった」(Soitec Asia 技師長の吉見信氏)という。


図1●SOI基板の市場が急ピッチで拡大2006年のSOI基板市場(面積ベースでの推定値)は対前年比49%増となり,2001年と比べると3.4倍に達する見込みである。今後,SOI基板の用途が高速プロセサ以外に広がれば,市場の拡大ペースはさらに速まる可能性がある。ガートナー ジャパンのデータを基に本誌が作成。