「超臨界流体」をLSI 製造プロセスに活用する試みが,ここに来て大手LSI メーカーの間で活発化している(図1)。

超臨界流体は,物質を溶かす性質を備えながら表面張力がない流体である。CO2 や水を一定以上の温度と高圧にして作る。表面張力がないため,LSI の洗浄工程に使うとパターンへのダメージを抑制できる。さらに,既存のRCA 洗浄(本号pp.108-113 に関連記事)に比べて薬液を削減できる。そのほか,LSI の微細化に伴い,成膜にも効果を発揮するようになってきた。アスペクト比の大きい穴などの微細構造に入り込みやすく,均質な膜を形成できる。

300mm対応の洗浄装置が登場

日本では,エルピーダメモリがDRAM のキャパシタに使う高誘電率(high-k)膜や金属の成膜向けで,2005 年7 月から超臨界流体の応用研究に着手している。ソニーは,低誘電率(low-k)膜上のレジストや残さ除去への応用を2006 年8 月に発表した。

さらにここに来て,米国および韓国の大手LSI メーカーや台湾のSi ファウンドリが,32nm 世代以降のLSI 製造ラインへの導入に向けた技術評価を本格化させる。超臨界流体を使う300mm ウエーハを処理できる洗浄装置が登場したためである。エスペックとつくばセミテクノロジーが,2006 年7 月にデモ機を開発した。同装置の大手LSI メーカーによる評価が,2007 年上期に始まる予定である。従来の装置はチップ・レベルでしか処理できず,量産導入の検討が本格化していなかった。

LSI 製造に応用する動きが活発化
図1 LSI 製造に応用する動きが活発化
超臨界流体は,MEMS(micro electro mechanicalsystems)向けでは実用化されている。LSI 向けでは,超臨界流体技術を手がけるベンチャの米SC Fluids,Inc.が開発した洗浄装置を,大手チップ・メーカーが量産向けに評価した経緯がある。その際は量産ラインに採用されなかった。そのほか複数の装置メーカーが開発に着手したが,中断した例が多い。写真はエスペックとつくばセミテクノロジーが開発した超臨界CO2洗浄装置。CO2 は31℃以上,7.3MPa 以上で超臨界状態になる。本誌が撮影。