非競争領域ではなく,競争領域の研究開発コストを削減する「研究開発ファウンドリ」という事業が本格的に始まった。研究開発ファウンドリはユーザーの機密情報を守りながら,クリーン・ルームや装置を貸し出したり,新技術をユーザーと共同開発したりする。米SEMATECHの子会社である米 Advanced Technology Development Facility, Inc.(ATDF)が先行している(図1)。既にLSIメーカー10社弱,ベンチャまたはIP(intellectual property)企業15社,装置・部材メーカー15社が利用しているという。

機密保持の仕組みに強み

 非競争領域の研究開発コストを削減する試みとしては,各種コンソーシアムがある。研究開発費を複数のメンバー企業で共有することによって1社当たりの負担を軽減できる。ただし,開発した成果はメンバー企業すべてに公開されるので,競争領域の研究開発は各社が個別に進める必要がある。

 今回の研究開発ファウンドリでは,設備は複数の企業で共有するものの,その成果は互いに見えないようにすることで競争領域の研究開発を可能にした。「そのための機密保持の仕組みやウエーハ汚染の防止策に独自の強みがある」とATDF corporate director of technologyの池田修二氏は言う。例えば,東京エレクトロン向けに貸し出している148.6m2(1600ft2)のプライベート・ルームは ATDFの社員ですら入れないという。

 ATDFにおける研究開発の進め方は,ユーザーが自由に選べる。例えば,ATDFではSEMATECHの開発成果を使った基本プロセスを自前で構築しているが,それを利用してユーザーが独自技術を追加することができる。ATDFの基本プロセスを一切使わず,設備を利用するだけでも良い。

競争領域の研究開発コストを削減
図1 競争領域の研究開発コストを削減
図の(c),(d)は32nmノード向けマルチゲートFETを米Texas Instruments Inc.とATDFが共同開発した事例である。このほかにも,自前の製造設備を持たない米Thunderbird Technologies, Inc.が「Fermi-FET」と呼ぶアイデアを基にATDFで試作し,オン電流の40%の改善を確認した事例もある。なお,研究開発ファウンドリの料金は試作したウエーハの枚数や検査装置の利用回数,利用したATDF技術者の人数や時間などによって決まる。ATDFのデータ。