automotive semiconductor

 車載半導体の最小加工寸法は,民生機器用半導体の何年か後を追っていくことが常だった。さまざまな使用条件下でも高い信頼性を維持する必要があったためである。

 例えばエンジン制御用LSIの使用環境温度は+100℃~+125℃程度まで上がる。LSIは一般に,使用環境温度が高くなるほど信頼性を確保することが難しくなる。配線が断線しやすくなる,雑音耐性が低下するといった問題や,リーク電流が増し電池寿命が短くなるという問題などが出てくるためだ。

 こうした問題に対処するため,プロセス技術を車載専用に細かく調整したり,民生機器など他の用途で信頼性が実証済みの,いわゆる「枯れた」最小加工寸法の半導体技術を利用するといった工夫が必要だった。

民生機器用と差がなくなった

 しかし,技術進歩により,半導体そのものの信頼性はどんどん高まってきた。例えば,あるフラッシュ・メモリ・メーカーが民生機器などに向けてこれまで出荷してきた製品の市場不良率は,車載向けで最低限必要とされる市場不良率の水準まで低下してきている。

 その結果,車載機器向けLSIの微細化はここにきて急進展している。1990年代初頭には,民生機器向け論理LSIと同一の最小加工寸法を導入する時期が,少なくとも民生機器向けより2年~3年遅れていた。しかしその後,両者の差は縮小し,いまや車載向け論理LSIの開発現場では,最先端のデジタル民生機器用論理LSIとほぼ同一の最小加工寸法を使っている。

 車載機器向けで使用する最小加工寸法が民生機器向けに追い付いたことで,民生機器向けLSIから車載機器向けLSIへの要素技術の流入が本格化する。最新のデジタル民生機器向けに準備された機能ブロックや回路技術,パッケージ技術を即座に車載機器向け半導体に投入することが可能になる。車載向け半導体の技術進化はさらに加速し,機能面や性能面では民生機器向けとの差がほとんどなくなっていくと見られる。

先端不揮発性メモリが続々

 不揮発性メモリの分野では,大きく3つの方向で半導体メーカーが開発競争を繰り広げている。1つはプログラム格納用としてマイコンに集積あるいは外付けしているフラッシュ・メモリの容量をチップ面積をあまり広げずに増やすこと,2つめはECUの調整データや自己診断機能用のデータ,故障情報などを格納するためにマイコンに外付けして使うEEPROMの長期信頼性を高めること,そして3つめはマイコンに集積しているSRAMとフラッシュ・メモリを別の不揮発性メモリに置き換えて消費電力を減らすことである。

 フラッシュ・メモリの容量拡大については,米Freescale Semiconductor社や米Spansion LLC社などが,SONOS技術で対応する計画である。SONOSとは,浮遊ゲートではなくSiN膜に電荷をためるフラッシュ・メモリである。ビット・データになる電荷をため込むメモリ・セルの面積は,浮遊ゲートを使う品種に比べて10%~20%小さくなる。その分,チップ寸法を小さくできる。

 EEPROMの長期信頼性については,例えばセイコーインスツルは書き換え可能回数を増やすことで向上できたという。一般に書き換え可能回数が多いほど,データの保存能力が高いと見なせるからである。同社はメモリ素子間の間隔を広げ,他社よりも1ケタ多い書き換え可能回数を実現した。

FeRAMは堪えられるか

 SRAMやフラッシュ・メモリを別の不揮発性メモリで置き換える方法に関しては,富士通が強誘電体メモリ(FeRAM),Freescale社がMRAMを集積したマイコンを検討中である。FeRAMは書き換え可能回数が100億回,書き換え時間が250nsとSRAMに近い。MRAMの書き換え可能回数は理論上無制限であり,書き換え時間は10nsとSRAMを凌駕する。

 2005年後半に市場に登場するMRAMは,車載マイコンに集積した品種を量産できるのは2010年ごろと見られる。FeRAM混載の車載マイコンについては,富士通がサンプル出荷できる段階にある。

 FeRAMをECUに搭載する場合の大きな問題は,連続動作する保証温度が+85℃と低く,ECUを設置できる場所が車室内に限られることである。エンジン・ルーム内の設置まで考えると,自動車メーカーとしては+125℃での動作保証がほしいところだ。ただし,10年にわたってクルマを使った場合,マイコンの温度が+125℃に達するのは約20時間,+110℃~+125℃の範囲では多くても200時間と言われている。このような実使用状況を考慮すれば,FeRAMは+125℃動作保証が求められる環境でも使えると,メーカーは主張している。