probe car

 クルマがネットワークで車外の世界とつながるということは,情報を一方的に受け取るだけでなく,クルマ自らが情報の発信源になれるということでもある。多数のクルマが走行中に発信する情報を整理,統合すると,さまざまな利用価値を持つデータになる。例えば,ある地域を走行中のクルマのワイパーの動作状況を収集すれば,きわめて精密な降雨情報マップが作れる。

 プローブ・カーがもっとも威力を発揮するのは,リアルタイムの渋滞情報だ。主要幹線道路しか対象にしていない現行のVICSによる交通情報を,県道や私道などにも広げられる。さらにVICSによる交通量や地点間の所要時間のデータがあまり正確でないことが判明している区間ではこれを代替したり,これから走行する区間における過去の交通情報を,サーバに届いたばかりのデータで補正したりすることで所要時間の予測精度を大幅に高めることができる。

先行するホンダ

 プローブ・カーを使った渋滞情報サービスは,ホンダが2003年9月に実用化しているほか,トヨタ自動車も経済産業省とともに2005年度中に試験を開始し,2007年度をメドに実用化する計画だ。トヨタ自動車が参入を表明したことで,ホンダのようにプローブ・カーの仕組みを自社で個別に構築するのか,トヨタ自動車のように各社で協調する路線をとるのか,今後の動向が注目される状況になってきた。

 現状ではホンダが「インターナビ・プレミアムクラブ」で「プレミアムメンバーズVICS」として実用化している。各会員が走行状態をサーバにアップロードすることで,VICSでは得られない抜け道を表示することが可能になる。

 ホンダのインターナビ・プレミアムクラブの会員は20万人以上。これまでに会員から収集した走行データは3000万kmを超えるという。渋滞情報をサーバで管理しているのが特徴で「新しく道が一本できただけでも車の流れは変わる。過去のデータを基に担当者が渋滞予測を適宜変えている」(ホンダ)とのことだ。

渋滞情報は共有すべきか

 これまで1社で独走してきたホンダに対して他社は否定的に見ていた。「渋滞情報は各社で共有すべきもの,1社で構築すべきものではない」(トヨタ自動車),「各社でインフラを共有した上でサービス面で競争する原理を入れたらよい。共有する部分は国が主導で進めても良いのではないか」(日産自動車)という見方が多かった。

 渋滞情報を各社で共有しようという流れの中,トヨタ自動車は経済産業省と手を組んでプローブ・カーのシステム作りを進めている。システム開発には,デンソーやNTTデータ,NEC,日立製作所,富士通,松下電器産業などが協力する。自動車メーカーとして参画しているのはトヨタ自動車だけだが「他社にも広く開放する考え」(経済産業省)という。一般の乗用車やタクシー,バス,トラックなどからも情報を集めることで,全国すべての道路の渋滞情報をカバーすることを目指す。

 システム構築に必要な約15億円を国が負担し,2005年度中に実証実験,2007年度をメドに実用化を検討する。サービスは有料になる見込みで,サービス提供会社やどの会社が加盟するのかはまだ具体化していない。

手間をかけずに地図製作

 プローブ・カーで収集した交通情報を拡張すれば,地図データの作成コストを減らすことが可能になる。デジタル地図データベースの制作を手がけるトヨタマップマスターは,名古屋市内で1570台のタクシーが3カ月間,プローブ・カーとして走行した結果を分析することで進入禁止や一方通行といった交通規制が設けられている区間を特定できることを示した。あらかじめ用意した地図データには存在しない道路が開通したことも把握できたという。

 地図データの作成にはこれまで,交通規制や道路の建設状況の調査に膨大な手間と時間がかかった。これに対して,プローブ・カーで収集した交通情報を使えば,どこを実地調査してカーナビの地図データを更新すればよいのか簡単に確認できるので,作成コストを抑えられる。「現在は1年に1回ほどしか地図データを更新していないが,将来は現行とさほど変わらない作成コストで更新頻度を3カ月に1回程度に短くできる可能性がある」(同社)という。

 さらに,プローブ・カーによるコスト抑制効用は,日本国内のように交通インフラの整備が一段落した地域よりも,中国などのように道路の建設がどんどん進む上,新たな交通規制や道路の建設計画の情報が必ずしも十分管理されていない地域で真価を発揮すると見られる。「地図データの製作コストの低減効果は計り知れない」(同社)と見ている。