drive control based on navigation system

 カー・ナビゲーション・システムが持つ地図情報を利用した車両制御のこと。もっとも一般的なのは,地図情報とAT(自動変速機)やCVT(無段変速機)を連携させたシステム。カーブを予想して,カーブの手前でシフト・ダウンすることによりエンジン・ブレーキを使う。運転操作が快適になり,安全性も高まる。トヨタ自動車や富士重工業,日産自動車が実用化している。

 トヨタ自動車は1998年5月に発売した「プログレ」で「NAVI・AI-SHIFT」と呼ぶシステムを初めて導入した。カーナビの情報と走行中のクルマからの情報を基に,カーブにおける変速ギアを最適化する。変速操作の判断材料として,カーブの曲率,道路の勾配(坂),ドライバーが踏んでいるペダルの種類(アクセル・ペダルなのかブレーキ・ペダルなのか)などを組み合わせ,最適なギア比を算出する(図1)。

NAVI・AI-SHIFTの作動例
図1●NAVI・AI-SHIFTの作動例
カーブ形状や勾配に応じて適切にギア比を変化させる。下り坂ではシフトダウンしてエンジン・ブレーキを利かせる。

 カーブの曲率は,カーナビのデジタル地図情報(座標点データ)から算出する。勾配は,クルマへの加速度の強さで推測する。平坦な道でアクセルを踏んだ時の加速度を「基準加速度」としてコンピュータに記憶しておく。基準加速度と速度センサから計測した実際の加速度を比較することで,上り坂か下り坂かを推測する仕組みだ。実際の加速度が基準加速度よりも大きい場合は下り坂,基準加速度よりも低い場合は上り坂と推測する。

 勾配の算出には,地図データ上の等高線も参考にしている。ただし,同じ等高線の上でも道はアップ・ダウンしているし,トンネルの中などはトンネルの上の地点の高度を基準にしてしまうなど,問題もある。

自動変速機の欠点カバー

 カーブ情報と勾配情報を基に道路形状を3次元で判断し,道路を走行する上で最適なギア比に変速を制御する。

 例えば,上り坂と判断すれば,シフト・アップを制限してスムーズな走行を提供する。また,アクセル・ペダルを踏んだ量と車両加速度から下り坂と判断した場合は,ドライバーがブレーキを踏めば,シフト・ダウンしてエンジン・ブレーキを発生させる。ギアを割り当てるマップは細かく条件を分けており,CVTの場合はさらに細かく条件を設定している。

 トヨタ自動車がNAVI・AI-SHIFTに力を入れるのは,現状の自動変速機には課題があるからだ。自動変速機は,割り当てるギアを車速とスロットル開度で決めている。例えば,ドライバーが下り坂でアクセル・ペダルを放すと,自動的にエンジン・ブレーキが利くようにシフトダウンしてくれるのが理想だ。しかし実際には,アクセル・ペダルの踏み込み量が少なくなると4速から5速へシフトアップしてしまうケースがあった。NAVI・AI-SHIFTは道路の勾配,カーブ曲率,ドライバーの操作から判断しているため,道路形状に応じたギアを選択できる。

ハイブリッド車の燃費を改善

 カーナビを使った車両制御は,ハイブリッド・カーや電気自動車の効率運転に有効と見られている。モータや回生ブレーキを使うタイミングを道路情報に合わせて精密に予測すれば,燃費を改善できるからだ。例えば,数km先から長い下り坂が続くときは,回生ブレーキで充電できるので,その前はモータ走行でバッテリを放電しておく,というような設定が可能だ。同様に,通勤路など毎日通る道での走行パターンをデータベース化しておくという方法もある。走行パターンに合った発電,放電が可能になり,燃費向上につながる。