in-car information terminal

 自動車内で乗員に情報を提供するシステム。カー・ナビゲーション・システムのような行き先までの経路を案内するシステムから始まったが,近年では通信機能を取り込むことで,交通情報や店舗情報,電子メールなどの表示も可能としている。

 1981年にホンダが発売した日本初のカー・ナビゲーション・システムは,ジャイロを使った自立航法システムだった。現在はジャイロ方式とGPS(global positioning system)方式を組み合わせ,自車位置を正確に算出している。地図情報を収容する媒体も,CDからDVDに代わり,最近の高級機種ではハード・ディスク装置(HDD)を使い,高速な読み出しに対応している。容量が大きいというHDDの特徴を生かして,地図を3次元グラフィックスとして表示することや,衛星写真を使った写実的な地図表示が可能な機種もある。

 通信機能としては,1996年4月から「VICS(vehicle information and communication system)」が国内で稼働を開始した。電波ビーコン,光ビーコン,FM多重放送などを使って,渋滞や事故などの交通情報の受信が可能となった。

 2002年からは,携帯電話の通信機能を利用した情報サービスがスタートした。カー・ナビゲーション・システムと通信システムを組み合わせて情報サービスを提供するシステムをテレマティクスと呼び,携帯電話のインフラ整備やマイクロプロセサの高度化に合わせて進化している。

 KDDIの「CDMA2000 1x」端末を内蔵しているのがトヨタ自動車の「G-BOOK」やパイオニアの「Air Navi」で,特にG-BOOKはトヨタ自動車以外にマツダ,三菱自動車,富士重工業などが採用を表明している。常時接続で最大通信速度は144kビット/秒。地図情報の自動更新や渋滞情報の取得のほかに,電子メールの送受信,天気情報,店舗情報などを表示する。2005年スタートの「G-BOOK ALPHA」からは,通信速度を最大2.4Mビット/秒と高速化している(図1)。

 同様のサービスとして日産自動車「カーウイングス」やホンダ「インターナビ・プレミアムクラブ」がある。いずれもG-BOOKとは異なり,その都度,携帯電話機を接続して使う方式だったが,最近になってインターナビ・プレミアムクラブはカード型PHS端末を組み込めるようになり,情報のやり取りの密度が一気に高まっているという。

 日本は道路が複雑という事情もあり,これらカー・ナビゲーション・システムは他国に比べて大きく進化したが,その一方で高速道路の料金自動収受システムは遅れていた。2001年から一般利用が始まったETC(electronic toll collection)は,5.8GHz帯,通信速度1Mビット/秒で有料道路の自動支払いを実現している。将来は高速道路以外の店舗での決済なども視野に入れて,実証実験が進んでいる。

 警察庁,総務省,経済産業省,国土交通省と連携してITS(高度道路交通システム)の普及活動を手掛けるITS Japanでは,今後の車載情報端末の方向性についてナビゲーションの高度化のほか,安全運転支援などを挙げている。

 安全運転支援とは,道路や車両に設置したセンサで道路や周辺車両の走行環境を把握し,運転者に知らせるというもの。例えば道路が凍結していることや,速度が超過していることを知らせることも可能になる。

 これらの3つの予測を組み合わせることで,渋滞の予測的中率が上がり,より適したルートや正確な目的地到着時間を求めることが可能になったという。

通信モジュールで先行する欧州

 欧州のカーナビ市場は日本の半分以下と言われているが,データ通信モジュールを内蔵したカーナビの製品化という点では日本よりも先行している。イタリアFiat Auto S.p.A.やフランスPSA Peugeot Citroen社などは早くから情報提供サービスを始めていた。欧州では携帯電話機の通信方式がGSM方式に統一されていることが,カーナビへのデータ通信モジュールの内蔵を後押しする一因になっているようだ。例えば,Fiat社は2001年4月から欧州11カ国を対象に,オペレーター800人を擁して,経路案内やタウン情報,緊急通報などのサービスを14言語で行っている。基本サービス料は月額20ユーロ(約2400円)という。

トヨタ自動車の「G-BOOK ALPHA」
図1●トヨタ自動車の「G-BOOK ALPHA」
データ通信方式に「CDMA2000 1x EV-DO」を採用し,最大2.4Mビット/秒の高速通信を可能とした。