pedestrian detection system

 車載カメラなどを使って,とくに夜間の障害物の中から歩行者を識別し,ドライバーに警告を与えるシステム。歩行者認識システムの商品化が難しいのは大きく二つの理由による。一つは歩行者認識のアルゴリズムが未発達なこと,もう一つはプロセサの処理性能が足りないということだ。

 第1の認識アルゴリズムについては,現在のところ決め手となる方式がない。部品メーカーや電機メーカー,学術機関は,新しい認識アルゴリズムの論文や試作システムを発表している。しかし,人間の動きはきわめて複雑で「ある状況では認識できても別な状況では認識できないというものでは商品として販売できない」と自動車メーカーの研究者は言う。

 ステレオ・カメラによる先行車の認識をいち早く実用化した富士重工業も「クルマは,サイズが大きく動きも安定していることから認識しやすかった。歩行者認識にも取り組んではいるが,まだ使えるレベルには達していない」と慎重だ。トヨタ自動車もステレオ・カメラを用いた歩行者認識の開発に取り組んでいるが,まだ実用化に至っていない。

 歩行者認識の実用化が難しい第2の理由は,膨大な処理が必要になるためプロセサの能力が追い付かないことだ。大学の研究室で高速なコンピュータを使って歩行者認識できるアルゴリズムを開発したとしても,車載コンピュータで実行して処理が間に合わなければ意味がない。

形状認識かパターン・マッチングか

 そんな中,ホンダは2004年10月に発売した「レジェンド」でカメラによる夜間向けの歩行者認識システムを世界で初めて実用化した(図1)。画像処理を用いて歩行者を認識するアルゴリズムには主に2種類あるが,ホンダが実用化した「インテリジェント・ナイトビジョンシステム」は人間の身体的な形状の特徴を識別するタイプである。もう一つは,DaimlerChrysler社と三菱ふそうトラック・バスが開発中のシステムのように,パターン・マッチングを用いる手法である(図2)。


図1 ホンダの「インテリジェント・ナイトビジョンシステム
熱を放射している歩行者の映像がダッシュボード上の専用ウインドウに表示されている。

 ホンダのシステムは,形状的な特徴があるかどうかで歩行者と認識している。原画像の障害物から,電柱や車両を除いたものに対して「頭部や肩の形状があるか」「幅が0.5m程度であるか」「高さが1~2mの範囲内か」などで判定して歩行者と認識する。「テンプレートの形状を作って原画像と比較する方式は処理の負荷が大きいことから採用しなかった」という。

 一方,DaimlerChrysler社と三菱ふそうが開発中のものは,歩行者の形状のテンプレートを多く作り,歩行者と予想される物体の形状と照らし合わせて判定するもの(図2)。すべてのテンプレートと照らし合わせるのは膨大な時間がかかるため,代表的なテンプレートで大まかに絞り込んで効率的に検出できるようアルゴリズムを工夫したという。

 これらのシステムは,いずれも三角測量法の原理を使って障害物までの距離を測定している。大きな違いは,ホンダが人間のような遠赤外線を放射している物体を歩行者の可能性がある障害物と判断して認識を始めるのに対して,DaimlerChrysler社と三菱ふそうの認識方法は,まず画面上のすべての点を距離画像に直し,そこから障害物らしきものを選択して,最終的に歩行者かどうかを判定している点だ。


図2 DaimlerChrysler社と三菱ふそうが開発中の認識システム
歩行者らしい障害物を検出すると,パターンと照らし合わせて歩行者かどうかを判断する。