FCV : fuel cell vehicle

 燃料電池を搭載し,水素と酸素から電気エネルギーを作り出し,その電力を利用してモータを駆動する電気自動車。燃料電池は,化学反応によって電気を作り出す発電装置で,多数のセルから構成される。セルの負極に水素を供給し,正極に酸素(空気)を供給すると,触媒によって負極の水素がイオン化され,電子が回路を通って正極側に移動する。これによって,電気が発生する。イオン化された水素は,正極と負極の間にある電解質膜を通って正極側に移動。そこで,電子や酸素と結合することで水となる。

 特徴は,水素と酸素を供給すれば電気を取り出せる上,二酸化炭素や窒素酸化物の排出がないこと。また,車両に搭載した水素を駆動力に変えるまでの効率は,エネルギー回生などを含めて50%程度と,内燃機関より高くできる。このため,省資源かつ地球温暖化の抑制に有効な技術として開発が進んでいる。

 米国カリフォルニア州のZEV規制に対応するため,1990年代初頭に電気自動車の開発ブームが起ったが,2次電池だけを搭載した電気自動車には航続距離が短いという致命的な欠点があった。一方,同じ電気自動車の一種である燃料電池車は,現行のガソリン車と同様,運行途中で水素を供給すれば航続距離をいくらでも延ばせるため,純粋な電気自動車よりも実用性が高いと見られるようになった。

 初めて登場した燃料電池車は,1994年のDaimlerChrysler社「NECAR I」で,これをきっかけに自動車メーカー各社が開発を始めた。トヨタ自動車「FCHV」,ホンダ「FCX」,米General Motors社「Sequel」,ドイツVolkswagen社の「HyMotion」,韓国Hyundai Motor社「FCEV」などが知られている。現在でも各社から新型試作車やコンセプト・カーの発表が続いている(図1)。

燃料電池車のコンセプト・カー「FCX CONCEPT」

図1 2005年10月の東京モーターショーでホンダが発表した燃料電池車のコンセプト・カー「FCX CONCEPT」とシャシー
ボディ・サイズは全長4720×全幅1870×全高1430mmで,ホイールベースは2900mm。

量産化までの課題

 燃料電池だけではブレーキ時などにエネルギー回生ができないため,2次電池を搭載する燃料電池ハイブリッド車が一般的になってきた。2次電池としてはNi-MH(ニッケル水素)電池やLiイオン電池が搭載されることが多い。

 水素の搭載方法は,気体か液体かの2種類に分かれるが,最近は35MPaの高圧水素を搭載する方式が主流になりつつある。しかし,高圧水素タンクは容積が大きい割に水素貯蔵量が少なく,現在の試作車では200km~300km程度しか航続距離がとれない。自動車メーカーは最低でも500km以上の航続距離を達成したいとして,70MPaの高圧タンクや水素吸蔵材料との複合化を試みているが,あまり成果は上がっていない。

 燃料電池車を普及させる上で最大の課題は低コスト化である。高圧タンク,2次電池,燃料電池スタック,モータ,パワー・コントロール・ユニットなど車両に搭載する部品が多く,それぞれの製造コストが高い。なかでも,複雑な構造をしたセルを多数積層した燃料電池スタックは非常に高価である。

 自動車はさまざまな環境で使用されるので,小さな化学プラントである燃料電池の耐久性や信頼性を確保できるかどうか,という問題もある。氷点下数十℃という低温環境下での始動も保証しなくてはならない。事故時における水素貯蔵タンクの安全性も十分に検証しておく必要がある。さらに,水素を製造したり,輸送,供給するためのインフラをどのように整備するかも課題となっている。こうした課題があるため,本格的な実用化は2010年以降とみられている。