LSIの露光分野で新たな材料が出てきた。液浸ArF露光向けの“高屈折率液体”である。12月の「セミコン・ジャパン2004」に登場し,多くの露光技術者が「こんなに早く実現するとは思わなかった」と驚きの声を上げた。

 高屈折率液体とは,屈折率が純水(1.44)よりも高い液体を指す。通常,液浸露光ではレンズとウエーハの間に純水を入れて解像度や焦点深度を改善させるが,高屈折率液体を使えば,さらに改善できる。

 これまでも高屈折率液体の候補は提案されていたが,屈折率と光の透過率を両立することが難しいと考えられていた(日経マイクロデバイス誌2004年9月号,pp.57-62 に関連記事)。ここへ来て,屈折率が1.64 と高く,光の透過率が厚さ1mmで97%と高い液体をJSRが開発した。キヤノンの二光束干渉露光装置を使った実験で線幅/線間隔32nm(hp32)を解像している。hp32 では液浸F2 露光やEUV(extreme ultraviolet)露光が必要になるとの見方があるが,今回の結果は液浸ArFを延命できる可能性を示している(図1)。ただし,EUV露光技術者は今回の成果が出たとしてもhp32を量産化する2013年において液浸ArFで露光できるパターンは限られるとの見方を崩さない。「規則的なパターンは露光できるが,複雑なロジック・パターンではマスク・コストが高くなりすぎる」(EUV露光技術者)ためである。

 材料の詳細についてJSRは明らかにしないが,有機系の液体であり,液浸露光に適した特徴を持つとする。例えば,液体の粘度は純水とほぼ等しい。レンズやレジストへの化学的な反応性もほぼないという。コストに関しては,比較的入手しやすい材料を使っているので要求値の15米ドル/リットル以下に抑えられるとする。また,ガスの溶解性が純水の10倍と高く,液中で発生した泡を速やかになくすことができるという。


図1●液浸ArF露光を延命 屈折率が1.64,光の透過率が1mmで97%と高い液体が登場したことで,液浸ArFを延命できる可能性が出てきた。JSRのデータ。


同上でJSRのデータ。