兵庫県佐用郡三日月町光都にある大型放射光施設。東京ドーム30個分の敷地を持つ巨大な「X線源」で,X線を用いるさまざまな測定設備を備える。SPring-8という名称は「Super Photon ring-8 GeV」に由来する。

 SPring-8が発光する放射光の輝度は,通常のX線管より約10万倍高い。放射光のエネルギーも30keV~40keVと高い範囲にまで及んでいる。こうした性能の高さを生かし,さまざまな分野の研究において,一般の企業が研究室で使う小規模な測定装置では測定できない構造や寸法を知る手掛かりとしてSPring-8が用いられている。たとえば熱電材料やLiイオン2次電池の電極材料,層間絶縁膜の比誘電率や機械的強度の評価,MOSFETの歪みの測定などで使われた実績がある。記録媒体関連ではハード・ディスク装置(HDD)向けの垂直記録媒体やGMR(giant magnetoresistive)ヘッドに使う薄膜の評価,ディスプレイ分野ではPDPやFEDパネル向けの蛍光体などの研究に使われている。

 1991年から6年の歳月を経て完成し,1997年に運用を開始した。電子ビームを発生させる電子銃,ビームを1GeVまで加速させる線形加速器,さらに8GeVまで加速させる環状のシンクロトロン,8GeVを維持しながら放射光を発生させる蓄積リングなどから成る。

 「SPring-8」は,高速に移動する電子が急に曲がったときに接線方向に発生する放射光を利用する。放射光の輝度とエネルギーをX線管を用いる通常の装置と比べてケタ違いに高くするために,大規模な施設が必要になる。SPring-8の蓄積リング棟は直径500m,周長1436mと大規模である。この大きな蓄積リングの中を,8GeVのエネルギーを持った電子が,光速に近い速さでひたすら走っている。この電子に磁場をかけることで進行方向を曲げ,X線などの放射光を発生させる。そのため,蓄積リングの中には大量の磁石を設置している。


図 既存の装置と比べてケタ違いの測定が可能に
(日経エレクトロニクス2004年12月6日号より抜粋)