複数のアンテナをアレイ状に並べ,指向性を電波環境の変化に合わせて動的に変更できるようにしたもの。例えば,受信したい信号である希望波の方向(DOA:direction of arrival)に指向性が最大となるポイント(メイン・ビーム)を向けたり,干渉波の方向に指向性が落ち込むポイント(ヌル)を向けたりする。

 指向性の制御は各アンテナからの信号の位相と振幅を制御することで行う。いわゆる重み付け処理である。アダプティブ・アレイ・アンテナでは,アンテナ素子が少しずつずれた場所に配置されているため,ある特定の方向から来た波は各アンテナで少しずつ位相がずれて受信される。この位相がずれる量は信号の方向などによって決まる。このため,例えば重み付け処理により各アンテナに特定の量だけ位相を遅延させた後にそれらを合成すると,ある特定方向の波だけが強め合うことができる。

 アダプティブ・アレイ・アンテナの応用例の1つにPHSがある。たとえばウィルコムは,大都市圏に設置しているアンテナを2005年度に更新する。既存の基地局のほとんどは,同時通話可能な回線数が1基当たり3本にとどまる。これを,回線交換方式の音声通話で10回線,パケット交換方式のデータ通信で14チャネルの同時通信が可能な多チャネルの基地局に交換する。アンテナの指向性を制御することで,異なる方角への通信に同じ周波数を利用できる。同社は音声通話の定額制サービスを2005年5月に開始している。これに伴う基地局の輻輳を避けるため,こうした仕組みを採り入れた。

 このほか,地上デジタル放送を車載端末で視聴する際に,映像の乱れを軽減することを狙い1台のクルマに複数のアンテナを設置して受信する研究などが進められている。