狭義には,映画を映像ファイルとして通信回線やディスクなどを使って配信し,DLPなどのデジタル・プロジェクタで上映すること。銀塩フィルムを使って動画コンテンツを撮影/編集,配給,上映してきたこれまでの映画事業を,デジタルのビデオ信号ベースに置き換える試みの総称といった広い意味合いで,この言葉を利用することも多い。例えば,業務用HDTVカメラなどのデジタル・ビデオ・カメラで撮影した映画作品をデジタル・シネマと呼ぶこともある。

 銀塩フィルムを用いた従来型の映画上映と比較して,デジタル・シネマには複数の利点がある。例えば,フィルムの輸送にかかわるコストを大幅に削減できること,上映する映画を機動的に切り替えられること,旧作の映画を劣化させることなく長期保存できること,家庭用DVDの制作やテレビ放送といった2次利用への転用が容易なこと,などである。

 米大手映画会社7社が組織する業界団体であるDigital Cinema Initiatives, LCC(DCI)は2003年11月に,デジタル映像による映画配給を実現するデジタル・シネマ向けの映像フォーマットを策定した(表)。銀塩フィルムに匹敵するといわれる最高品質の映像フォーマットである4096×2160画素(「4K×2K」または「4Kデジタル・シネマ」と呼ばれる)の映像データと,2048×1080画素の映像データで構成する。映像の符号化方式にはJPEG2000を用いる。このフォーマットの詳細は,DCIのWWWサイトで見ることができる。

 デジタル・シネマ用コンテンツを制作するには,(1)CGを用いて制作する,(2)デジタル・ビデオ・カメラを使用して撮影する,(3)銀塩フィルムの各コマをスキャナで読み取りデジタル化する,といった手法がある。

表 デジタル・シネマの映像フォーマットの仕様
表 デジタル・シネマの映像フォーマットの仕様
2005年8月15日号より抜粋)