設計から製造にいたるさまざまな業務を同時並行的に処理することで,量産までの開発プロセスをできるだけ短期化する開発手法。コンカレント・エンジニアリング(Concurrent Engineering,CE)は,米国国防総省の研究機関DARPA(Defense Advanced research Project Agency)の兵器調達プロジェクトに関するレポートが始まりと言われている。

 品質やコスト,製造性,廃棄までのライフサイクル全体を設計者に最初から考慮させることを意図したもので,設計や生産,製造,サービスなどの各部門の視点を早期から開発に盛り込んでいく。

 企画に始まって構想設計,詳細設計,解析・試作というステップをシーケンシャルに処理する手法に比べ,前のステップが完了する前に次のステップの処理を進めていくことで,開発期間の大幅な短縮が期待できる。

 もともと日本の製造業の強みは,領域のあいまいな,よく言えば柔軟な業務分担体制と人的ネットワークにあり,出図前に製造に情報を流すといった工程着手の前倒しも実行されていた。

 前工程にオーバラップさせて後工程に着手するということは,手戻りが多発する危険性を含んでいるが,日本の製造業は,設計変更に強い下流工程の高度なスキルでそれを吸収していた。

 ただし,それは現場でのボトムアップ的なアプローチに過ぎない。3次元CADを中核とする現在のCEでは,それを組織的にこなす秩序だった仕組みが必要となる。そのため製品の構造や工程間・部門間の相関を捉え直し,業務工程を再設計する必要がある。

 また,各部門の情報を互いに共有できるシステムやネットワークインフラも欠かせない。設計データ,技術情報,営業情報,生産管理情報,在庫やサプライヤ情報などを,それぞれ必要なタイミングで開示,通知していかなくてはならず,PDMやグループウエアがこうした役割を果たす。

 また必要なスキルも変化する。下流工程を考慮して設計情報を作りこむということは,極端な場合,作業が設計現場に集約される。製品設計を進めながら,金型要件や生産要件を考慮したり,強度解析や組み立て性を検証したりするには,設計者に多方面のスキルや知識が求められる。

 現にCADにアドオンして利用できる設計者向けCAEやデジタルモックアップツールなどが珍しくなくなり,能力と意欲のある設計者なら自身で使いこなせるようになってきている。ただし,設計者だけで何もかも処理できるわけではない。下流工程の他部門との連携や調整能力もまた欠かせないスキルとなる。

 特に近年はCEをより押し進めた形ともいえる「コラボレーション」が盛んに提唱されている。CEが営業情報や製造・生産情報を盛り込みながら,あるポイントでプロダクト情報を開示していくアプローチなのに対して,コラボレーションは随時情報を共有して複数のエンジニアが協調して作業を進める。これによって,より柔軟な開発体制が築けると期待されている。

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