プリント基板設計用のフロアプランナ(floorplanner)は,ボード上で部品の大まかな位置(概略配置)を決めるためのツールである1)。各種の特性解析ツールと組み合わせて使うと効果が大きい。フロアプランナの主な使用目的として,次の3つを挙げられる。

  1. 仕様検討段階で,使用予定の部品からボードの大きさや配線収容性(配線のしやすさ),コストを見積もる。
  2. 論理・回路設計の段階で,フロアプランナと特性解析用ツールと組み合わせることで,早い段階から特性を見積もれる。これで,保守的な(マージンの大きな)設計をしなくてもすむようになる。部品やボードの実力を引き出せる。
  3. 論理設計者と実装設計者のコミュニケーションを円滑化する。

 以下,これら3つの目的をもう少し詳細にみていこう。

多くの候補を検討可能に

 ボードの仕様設計では,所望の機能や性能を満たす回路構成を何通りか挙げて,それらの大きさやコスト,製造のしやすさなどを比較検討する。また,回路構成が同じでも実際に使う部品が異なると,これらの評価ポイントには差が出てくる。例えばLSIのパッケージ(PGAやQFP,CSPなど)を変えたり,ある部分(または全体)をASICやMCMとして新たに起こせば,部品代はもちろんのこと,ボードの層数といった構造も変化する。

 従来,仕様段階では机上で設計者が自ら,コストやボード面積を算出していた。検討できる回路構成や部品の種類は,自ずと限られていた。フロアプランナを導入することで,より多くの候補のなかから最適なものを選びやすくなる。

マージンが少なくても大丈夫

 フロアプランナがなかったときには,レイアウト設計が終わらないと,各種の特性解析ツールを使いづらかった。特性解析ツールに入力する物理情報(例えば,部品の位置や配線長/配線経路)を作ろうとしても適当な手段がなかったためである。

 そこで,論理・回路設計者は過去の経験に基づいて,ボード上で発生する信号の遅延時間や雑音,発熱量を予測していた。下流の工程でトラブルが発生するのを避けるため,保守的な設計になってしまった。しかし,LSIの大規模・高速化やボードの高密度化によって,マージンはどんどん小さくなってきている。

 ここに,論理・回路設計段階でフロアプランナが活躍する場がある。すなわち,論理・回路設計者がフロアプランナを使い,大まかな配置や配線を行なう。これで得た物理情報を各種の特性解析ツールへ入力する。制約の厳しい設計でも下流工程でトラブルが発生する危険性が下がる。

論理・回路とレイアウトを結ぶ

 論理・回路設計が終われば,次はレイアウト設計である。従来,論理・回路設計者は,設計結果である回路図に加えて,レイアウト設計の指針や留意点をまとめた「指示書」を添付して,レイアウト設計者に渡していた。この指示書は,論理・回路設計者からレイアウト設計者への一方通行のメッセージである。すなわち,かつては論理・回路設計者とレイアウト設計者は別々に仕事をしていてよかったのである。

 ところが,論理・回路設計段階で,大まかの配置・配線設計が必要になることからもわかるように,今後は論理・回路設計の仕事とレイアウト設計の仕事はオーバラップしてくる。このときに,論理・回路設計者とレイアウト設計者のコミュニケーションの円滑化を図るのがフロアプランナである。
 フロアプランナという共通の土台を双方が使うことによって,論理・回路設計者とレイアウト設計者が情報交換したり,課題を検討する()。例えば,解析ツールで特性を求め問題があったときに,回路を変更したら方が良いのか,レイアウトを変更した方が良いのかを探る。

適用前にはさまざまの準備が必要

 EDAベンダによりフロアプランナのねらいには違いがある。たとえば,仕様検討に重点を置き,ボードの仕様や製造コストの検証機能をもつ製品や,論理・回路設計に重点を置き,解析ツールによる検証機能を強化している製品がある。

 実際にフロアプランナを適用するには,部品の価格情報やシミュレーション・モデルといったデータベースが必用になることはもちろん,運用するための知識が必要になる。適用する工程を絞ってから,フロアプランナを利用することが定着へのポイントになりそうだ。


(99. 9. 6更新)

参考文献

1)中山,「プリント回路基板設計用のフロアプランナが続々登場」,『日経エレクトロニクス』,1996年6月3日号,no.663,pp.97-105.

このEDA用語辞典は,日経エレクトロニクス,1996年10月14日号,no.673に掲載した「EDAツール辞典(NEC著)」を改訂・増補したものです。