2013年2月6日に日経BP社が主催したセミナー「世界半導体サミット@東京 2013 ~クラウド&スマート時代への成長戦略~」から、ファウンドリー大手の米GLOBALFOUNDRIES社のCEOを務めるAjit Manocha氏の講演を日経BP半導体リサーチがまとめた。今回から3回にわたって紹介する。
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 日本は尊敬すべき点がたくさんある国だと私はかねがね思っている。特に、この国の“苦境を乗り越える力”には尊敬の念を抱かざるを得ない。加えて、新しいものを迷いなく取り込んでいく積極性にも。

 日本における「野球」の浸透ぶりは、日本が新しいものを採り入れ、自分のものにしてしまう能力に長けていることを示す端的な例だろう。野球は米国で生まれたスポーツだが、今や日本の国民的スポーツとなっている。ペナント・シリーズ中は、テレビを付ければいつでもナイターを放映しているほどだ。

 野球というのは、なかなか複雑なゲームだ。四つの塁(ベース)を順に埋めていかなければ、点を取ることができない。そして、戦うべき相手は、時間ではなくてあくまでも相手チームである。2回や3回といった浅いイニングで大量点を取られても、9回の試合終了までに追いつく余地は大いにあるというわけだ。ゲームの状況に応じて、戦略を変えたり、投げる球を変えたり、球を打つ方向を変えたり。こうした戦術上のノウハウがいろいろとある点に面白みがある。

講演するAjit Manocha氏
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勝者はいつでも入れ替わり得る

 半導体産業は、野球のゲームとよく似ているのではないだろうか。あるタイミングで他社に後れを取ってしまった企業にも、追いつき、追い越すチャンスがいつでもある。ある時点で勝っている企業が、その後もずっと安泰というわけでは決してないのだ。

 例えば、フィンランドNokia社はかつて、携帯電話機の分野で誰も勝つことのできない存在だった。しかし現在はそうではない。米Apple社は、ある時期は非常に成功していたが、その後凋落した。そして、再び世界を席巻する企業となった。

 当社の場合はどうか。GLOBALFOUNDRIES社は、2009年時点ではファウンドリー業界で第4位の存在にすぎなかった。2010年に売り上げを大きく伸ばして業界3位となったものの、まだ十分なパフォーマンスをあげているとはいえなかった。我々は2011~2012年に事業戦略を大きく転換し、これを契機に業界2位のファウンドリー企業となることができた。現在では、技術革新のリーダーシップなど多くの点において、業界首位の企業に迫る存在となっている。

 ここからは本題に入ろう。まず、前回の本セミナーで私がお話したことを少しおさらいしたい。私が指摘したのは、半導体産業の構造がファブレスとファウンドリーを中心とするモデルへと転換していく潮流の中で、日本企業の変化のスピードが十分には速くなかったということである。

 そうしたことが一つの要因となり、日本の半導体・電機業界は現在、非常に苦しい状況を迎えている。エルピーダメモリは米Micron Technology社の傘下に入ることになり、ルネサス エレクトロニクスも産業革新機構からの支援を受けることになった。シャープやソニー、パナソニックといった大手電機メーカーの苦境も取りざたされている。