初出:日経エレクトロニクス、2011年8月22日号

電力損失を大幅に低減できる、次世代のパワー半導体として注目集めるGaN(窒化ガリウム)。このGaNを用いたパワー素子を利用する環境が今、急速に整い始めている。複数の企業が2011年後半から2012年にかけて、GaN系パワー素子を出荷開始する。

 パナソニックは、新たな電子デバイス事業に乗り出す。それは、GaN((ガンと呼ばれる半導体材料を用いたパワー素子(トランジスタやダイオードなど)事業である。現行のSiに続く次世代材料の一つとして、今、多くの機器メーカーが注目する材料だ。

 パナソニックはまず、白物家電用のインバータや汎用電源で利用されるPFC(力率改善回路)などに向けて、耐圧600V級のGaN系トランジスタとダイオードを製品化する予定注1)。同トランジスタ専用のゲート・ドライバICや、GaN系パワー素子を利用したPFC向け専用のコントローラICの提供も、視野に入れる。2012年には、GaN系トランジスタを搭載したモジュール製品の実用化も狙う考えだ。

参入企業が続々

 GaN系パワー素子事業に乗り出すのはパナソニックだけではない。これまで製品化していた企業は米International Rectifier(IR)社とベンチャー企業の米Efficient Power Conversion(EPC)社の2社にすぎなかったが、2011年後半から2012年にかけて、数多くの企業が次々と参入してくる(図1)。

図1 GaN系パワー素子事業に軒並み参入
これまで2社しかいなかったGaN系パワー素子市場に、パナソニックや富士通セミコンダクターなど数多くの企業が参入してくる。その中には、SiC製パワー素子事業を手掛けるロームやSTMicroelectronics社といった企業もいる。
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 例えば国内では、富士通セミコンダクターが2012年の本格量産に向けて、「今まさに、量産の立ち上げ作業を行っている最中」(複数の富士通関係者)である。まずはサーバー用電源での利用を想定する。

 海外企業では、製品出荷で先行するIR社とEPC社がさらなる製品ラインアップ拡充を図っている。米Google社から2000万米ドルの出資を受けたことで注目を集めるベンチャー企業の米Transphorm社も、GaN系パワー素子を市場投入する。

 2011年後半から2012年にかけて数多く製品化されるのが、GaN系トランジスタだ。ダイオードに比べて作りやすく、GaNの特徴を生かせるなどの理由からである。具体的には、耐圧600Vで出力電流が10~40A程度のGaN系トランジスタが登場する。Si製の低耐圧IGBTやSuper Junction構造のMOSFETなどの置き換えを狙うものである。

 素子メーカーだけでなく、使い手である電源メーカーや機器メーカーの関心も高まっている。GaN系パワー素子に向けた専用のゲート・ドライバICを手掛ける米National Semiconductor社によれば、「通信機器メーカーや電源メーカーからの引き合いが増えている」と明かす。2012年ごろには同社のICとともに、GaN系パワー素子が通信機器に搭載されそうだ。

注1)本稿でGaNを利用したパワー素子をGaN“系”パワー素子と表記するのは、GaNやAlGaNなどのGaN系半導体を利用するためである。一方、SiあるいはSiCを利用するパワー素子は基本的にSiかSiCをベースに不純物を注入した半導体などで構成されるため、Si“製”やSiC“製”と表記する。