図1 講演の様子
図1 講演の様子
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 トヨタ自動車は、2015年内に発売予定の次期「プリウス」の開発で、モデルベース開発のツールの適用範囲を拡大しているようだ。ハイブリッドシステムの制御ソフトウエアの開発において、従来よりもさらに上流まで適用していることを明かした。

 「今まさに開発中の次期ハイブリッド車(HEV)では、モデルベース開発のツールを多く活用している」。トヨタでハイブリッドシステムの開発を担当するHVシステム制御開発部長の阿部眞一氏は、dSPACE Japanが2015年6月5日に都内で開催したユーザー会に登壇し、次期HEVの開発状況についてコメントした(図1)。

開発のより上流に適用へ

 モデルベース開発とは、制御ソフトウエアおよび制御対象を数学モデルで記述し、シミュレーションを活用して制御ソフトウエアを開発・検証する手法である。自動車分野では、燃費向上のためのエンジン制御や、HEV/電気自動車(EV)など電動車両のパワートレーン制御のシステムおよびECU(電子制御ユニット)などの開発に使われている。

 阿部氏はトヨタで長年HEVの開発に携わってきた人物。ユーザー会での講演では「(1997年に発売した)初代プリウスを設計していたころは、ソースコードの記述や検証などは人力で何とかしていた。モデルベース開発のツールがあればもっと開発スピードを上げられたのでは」と過去を振り返った。

 HEV開発の現場ではその後、開発した制御ソフトを組み込んだECUの実機を、モデルを使ってリアルタイム検証する「HILS(Hardware in the Loop Simulation)」が広く使われるようになった。HILSは「Vサイクル」と呼ばれる車載ソフト開発のかなり下流に位置する。

 現在では、VサイクルでHILSよりも上流に位置する、「MILS(Model in the Loop Simulation)」あるいは「SILS(Software in theLoop Simulation)」と呼ばれるシミュレーション技術で車載ソフトを検証するプロセスへの適用も進んでいる。トヨタの阿部氏によれば、「次期HEVの開発では、これまでよりもさらに上流でモデルベース開発の手法を活用している」という。

 その背景には、「調停しなければならない、干渉する多くの要求」(阿部氏)がある。例えば、商品性に対する要求では、燃費(環境性)と走行性能(走る楽しみ)のバランスを調整する。背反する要求を満たすための「制御の味付けが大変」(同氏)という。部品保護の観点では、システム電圧や電池の充放電特性、発熱量などを勘案してコストと性能が最適になる条件を見極める。こうした場面でモデルベース開発を適用する。