今回の有機薄膜太陽電池の素子の模式図(出所:理化学研究所)
今回の有機薄膜太陽電池の素子の模式図(出所:理化学研究所)
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陽極と陰極の配置を入れ替えた「逆構造素子」を採用(出所:理化学研究所)
陽極と陰極の配置を入れ替えた「逆構造素子」を採用(出所:理化学研究所)
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 理化学研究所(理研)は5月26日、有機薄膜太陽電池で変換効率10%を達成したと発表した。

 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業の一環として取り組んだ、北陸先端科学技術大学院大学、高輝度光科学研究センターとの共同研究による成果である。

 有機半導体による薄膜太陽電池は、プラスチックや金属の薄い基板に、半導体のポリマー(高分子)を塗布して形成するため、しなやかで軽く、曲げることも可能な上、製造コストを下げやすい、寸法の制約が少ないなどの利点がある。

 これに対して、現在のメガソーラー(大規模太陽光発電所)などで広く使われている結晶シリコン系の太陽電池は、ガラス基板にスライスされた結晶シリコン系の半導体を貼りつけた構造のため、硬くて重い、設置場所が限られる、寸法の柔軟性に乏しいといった課題がある。

 ただし、有機薄膜太陽電池は、エネルギー変換効率が結晶シリコン系太陽電池の半分程度と低いことが、実用化に向けた課題となっている。当面の変換効率の目標として、10%が目標値となっており、今回、理研などの研究チームが実現した。

 有機薄膜太陽電池で変換効率10%を達成するため、半導体ポリマーそのものや、形成する発電層や素子の構造を改良した。

 正の電荷(正孔=ホール)を輸送する半導体ポリマーと、負の電荷(電子)を輸送するフラーレン誘導体を混合して形成する発電層を厚くした。従来の約150nmから、2倍となる300nm(n:ナノは10億分の1)に厚くし、電流密度を増大させることで、変換効率を従来の約6%から、8.5%に引き上げた。

 さらに、素子の陽極と陰極の配置を入れ替えた「逆構造素子」を採用したことで、変換効率10%を達成したとしている。

 太陽電池は、発電層を厚くすると、光の吸収量が増えて電荷の発生量が増える。ただし、半導体ポリマーは、シリコンなどに比べてホール移動度が低いため、ホールが電極に達する前に電子と再結合し、電流として取り出すのが困難になり、変換効率は低下してしまう。

 そこで、今回は、結晶性が高くホール移動度も向上し、発電層を厚くしてもホールが電極まで到達できる特性を持つ半導体ポリマーを採用し、この課題を改善した。

 大型放射高施設「スプリング8」において、今回の有機薄膜太陽電池の発電層を構造解析したところ、素子の上部電極と下部電極付近で、半導体ポリマーの分子配向が異なり、素子の上下方向で電荷の流れやすさが異なることが分かった。

 また、今回の構造の素子では、光吸収により発生した電荷が流れやすいように陽極と陰極が配置されており、これも変換効率の向上に寄与したとしている。

 今後、実用化の目安となる、変換効率15%を目指して、材料や素子の構造の研究開発に取り組む。