決算説明会に臨む作田氏
決算説明会に臨む作田氏
[画像のクリックで拡大表示]

 「この2年間は、身を削って何とか生き残ることに全力を尽くしてきた。このままだと死んでしまうというのが全社員の思いで、私も綱を一歩踏み外せば倒産だという思いでやってきた。ようやくそこから脱却できそうな今、生き残りではなく本来の目的である勝ち残りへとシフトしたい」――。

 2015年5月12日に発表した2014年度決算で、会社設立以来初の最終黒字転換を果たしたルネサス エレクトロニクス(関連記事)。同年6月の退任を控えた同社 代表取締役会長兼CEOの作田久男氏は、同日の決算説明会でこう心情を吐露した。

 2013年6月の就任からの2年間はまさに「身を削り、縮める」(同氏)ための構造改革や人員削減に追われた。「構造改革は何合目まで進んだかという質問をよく受けたが、通常の登山とは違って、どこまで進んでいようと一つ誤れば綱から落ちる状態だった。生き残れたのは運が良かったから。就任以来もし為替が逆に(円高に)振れていたら、とっくに死んでいた」。

「舵取りが本当に難しいのはこれから」

 2014年度に営業利益1044億円、最終利益824億円を計上し、ようやく一息ついたルネサス。だが、成長へのギアチェンジを図るこの先こそ、経営の舵取りは難しくなると作田氏は話す。「タイトロープ(綱渡り)を渡るのはしんどいが、(生き残りこそが先決だという)価値観は共有しやすい。一方、成長段階では社員の思いがバラけやすい。パラダイムシフトしながら、いかに成長のポイントをつかみアピールしていくかが鍵だ」。

 2016年度以降の同社の姿として作田氏が思い描くのは、営業利益率10%以上の実現。これを「実力ベースで達成する」。実力ベースとは、現状よりも円高に振れた1米ドル=95円程度の為替レートや、(事業終息に伴う)作りだめの影響を排除することなどを意味する。ここに向けて、かねて重視している「45%の粗利率を何がなんでも確保する」とした。

 作田氏は2015年6月、日本オラクル社長などを務めてきた遠藤隆雄氏に代表取締役会長兼CEOの座をわたす。遠藤氏の人選は、ルネサスの筆頭株主である産業革新機構と作田氏が協議して決めたという。「我々はこれまでシリコン(ハードウエア)ベースの会社としてやってきたが、これからはソフトウエアやシステム構築力がより重要になると考え、そのマネジメントを担える人材である点を重視した。年齢的にも、会社の勝ち残りには時間を要するという観点から(作田氏よりも10歳若い遠藤氏を)選んだ」。