半導体市場は果たして、停滞しているのか、それとも好調に推移しているのか。かつて世界で覇を競っていた日本の半導体メーカーが生き延びるためにリストラや合従連衡を繰り返していることから、日本にいると“半導体市場は停滞している”との印象を受けるであろう。だが、実際は違う。半導体は成長市場なのだ。米SIA(Semiconductor Industry Association)の発表によると、2014年の半導体世界売上高は前年比9.9%(金額ベース)で拡大し、2年連続で過去最高を記録した(日経テクノロジーオンライン関連記事1)。2015年も好調なのは変わりなく、SIAによる2015年2月での世界売上高まで22カ月連続で対前年同月を上回る状況が続く。

 昨今の好調な半導体市場を牽引しているのはDRAMだ。ただし、見逃せないのが、堅調な成長が続くアナログ半導体である。2014年におけるアナログ半導体の世界売上高(SIAの調査)は前年比で10.6%成長し、半導体全体の伸び率よりも高い(日経テクノロジーオンライン関連記事2)。2015年2月の時点でも前年比で2ケタ成長が続き、DRAMと共に半導体市場で注目される分野である。

 アナログ半導体の市場規模は、2014年時点で444億米ドル(SIAの調査)。半導体市場全体で見ると13%少々だが、利益率が高いことが特徴だ。営業利益率が20%を超える企業も珍しくない。そのアナログ市場で群を抜いて売上高を伸ばし、かつ40%を超える営業利益率を毎年のように記録し続けている企業がある。シリコンバレーの一角、米国ミルピタスに本拠を構えるLinear Technology社だ。

米Linear Technology社の本社社屋

 同社は1981年の創業以来、アナログ半導体一本で事業展開しており、多角化などの“浮気”をせずにアナログ半導体に開発リソースを集中してきた。スマートフォンや民生機器など、比較的低価格な機器に搭載されるアナログ製品を一切手掛けず、産業機器向けや自動車向け、基地局などの通信機器向けに注力する。アナログ半導体の市場として、成長率が高いところに注力している形だ。人材の流動が著しく転職が珍しくない米国企業の中で、同社は従業員が定年を除きめったに退職しない企業という特徴もある(日経テクノロジーオンライン関連記事3)。

 Linear Technology社はどのようにして高収益をたたき出しているのであろうか。今回、日経BP半導体リサーチは同社のCEOや各種事業責任者を取材し、同社の強さの源に迫った。そこから見えてきたのは、「誰もやったことがないことへの挑戦」「長期的な視点での製品企画」といった、極めて分かりやすいことをぶれずに徹底して進めていることである。そこには、半導体業界にとどまらず、他業界にとっても事業拡大を考える上でのヒントがある。