われわれの最新調査「プロフェッショナル用途ディスプレイ出荷調査レポート」によれば、主に医療施設で利用される医用ディスプレーは、2013年には全世界で約29万台出荷された。医用ディスプレーは、電子化されたレントゲン写真や、手術中に患部の映像や患者の情報などを表示するために使う。さらに、医用ディスプレーを3つのカテゴリーに分類調査した結果、医療画像参照用ディスプレーは7万台、診断用は14万台、手術(術野・手術室内)用は8万台、という市場規模であった(図1)。

図1 医用ディスプレー(カテゴリー別市場規模)
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 標準的なモニターの市場規模が2013年で1億4000万台であることを考えると、極めて限られた出荷台数規模である。しかし、この市場は拡大の余地が十分にある。医療施設における情報インフラの導入増加に伴い、医療関係者間の画像情報の共有や遠隔医療の可能性などの需要が増加するからだ。また、セットの平均単価は4000米ドル弱と高額で、規模は追えないものの、セットメーカーにとっても独自の付加価値や技術を盛り込めるプラットフォームとなる。

Innolux、NLT、JDI、LGなどがパネルを供給

 医用ディスプレーに採用されているパネルメーカーは、診断用ディスプレー用途のパネルに限れば、台湾Innolux社、NLTテクノロジー、ジャパンディスプレイ(JDI)、韓国LG Display社がパネルの出荷枚数のシェアを分けている。ここに、パナソニック液晶ディスプレイやシャープ、台湾AU Optronics(AUO)社などが食い込む構図である。医用ディスプレーのパネルでは、テレビ用やモニター用とは異なり、画像品質の短期・長期安定性や、「DICOM」などの医療画像規格、安全規格への対応を厳しく要求される。このため、当該技術分野を長く経験しているパネルメーカーがより多くシェアを占めている状況だ。

 また、特に診断用ディスプレーについては、使う側の医師からIPSモード液晶パネルの採用要求がある。これは主にデスクトップ端末で上下左右の色遷移、階調の遷移が少ない視野角を確保できていることが要件になっているためである。従って、現状ではVAモードの液晶パネルの採用は、画像参照用や手術用のディスプレーの一部にとどまる。

 一方、テレビやモニターの市場では4K(3840×2160画素)の解像度を持った製品の出荷数が、パネルやセットの価格低下に伴って今後急速に伸びると予測されている。医用ディスプレー市場に対しても、特に医療画像参照用ディスプレー市場を中心に高解像度化、低価格化の影響を及ぼす可能性がある。今後のセットメーカーのパネル採用動向に注目したい。